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椿姫を見ませんか (講談社文庫)

椿姫を見ませんか (講談社文庫)

注目の“椿姫”が大学オペラ練習中に毒死し、実在の“椿姫”を描いたマリー・デュプレシ像贋作事件が23年ぶりに浮上する。鍵を握る画家は日本画学生守泉音彦と気まぐれプリマ鮎村尋深の目前で息絶え、第二の“椿姫”も公演初日に斃れた。そして、第三の“椿姫”尋深が死を仕掛けられた舞台に上がる。


美術・音楽の2学部からなる芸術大学での連続殺人事件。本書は間違いなくミステリではあるが、1つ1つの事件に対して推理を延々と繰り返すような「本格」的なミステリではない。まぁ、学園内で死者が続出する事態なのに最後までオペラ「椿姫」の公演を強行するのは「本格」的な展開かな、と思ったけれど…。
学園の定期公演「椿姫」練習中に主役の「椿姫」が毒殺される。最初の事件は開始わずか30ページに起こる。その後も凶行は続き被害者は幾人も出る目まぐるしい展開。前述の通り本書には推理部分が極端に少ないが、この展開の早さはハードボイルド的な性格の持ち主の主人公・音彦とよくマッチしている。複数起こる殺人事件によって、事件解決に必要な美術・音楽の知識の説明文章にも躓く事なく、読者に緊張感を持続させる事に成功している。これは少し穿って考えると、1つ目の事件から容疑者をじっくり絞り込むと犯人が簡単に判明してしまう恐れがあったのかな、と思う部分もあるけど。一連の事件の被害者は「椿姫」の公演に出演する声楽の生徒が多いが、事件の背景となる謎は美術学部の専門で、オペラ「椿姫」の実在モデルの絵画の贋作事件が中心に据えられいる。事件1つ1つは単純な犯行だけれど、その組み合わせや事件背景に美術の贋作事件を絡ませる事によって複雑に奥行きのあるものに昇華している。
また本書で幾つか起こる事件の殺害方法を全て毒殺で統一させたのもミステリとしての面白さを倍増させていると思う。本書で用いられる毒は口に含めば即効で身体の自由を奪う強力なモノ。本書は毒殺という手法の面白さが堪能できた。毒殺は毒を「いつ」対象者の口に含ませるかに応用が利くのだ。例えば被害者が特定の時間・場所で口をつけそうな物(コップなど)に毒を忍ばせれば、それは時限爆弾のような効果を発揮する。更には被害者死亡時の自分のアリバイも確保できる一石二鳥。また、犯人自身も被害者の死亡時間や場所を限定できないという不確定な場合もある。「いつか」「どこかで」死んで欲しいという暗い欲求。本書ではこの2つの毒殺の特徴も上手く組み合わせて使い、謎を混迷させる要素としている。
小説部分では尋深と音彦のキャラクタ・関係が良かった。自身の才能すらまだ自分ではコントロール出来ない自由奔放な尋深と、世間知らずの良家の子女が集まる芸大の中で経済的にも精神的にも自立している音彦。友達以上、恋人未満の関係(死語?)であり、2人の間には絶対的な信頼がある。彼らの気の置けない関係を示すエピソードの数々が面白かった。音彦の性格は作者の森さん自身でもあり(解説によると)、またベートーヴェンにも少し似ているように思えた。
本書には何組かの親子が登場するが、どの親子関係も良好とはいえない場合が多い。特にあの人の親子関係は読了後もずっしり重く響いた。知っている者と知らない者のすれ違い。親子の関係でこんなに悲しい関係もないだろう。
美術品や贋作事件が登場するからか、読書中、頭の片隅にはずっと「北森鴻」さんの名前が浮かんでいた。世の中をシニカルに斜に見る視点や出版社や編集者に対する恨みを創作意欲にしてそうな点が似ている(失礼か…)。

椿姫を見ませんかつばきひめをみませんか   読了日:2008年09月23日