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「やっぱり猫が好き」な室井滋さんの猫づくしの一冊。

コインパーキングの29番で生まれ、ノラで生きることを選んだ猫が見た、猫の葬儀。夫の不倫相手の名前をつけられた猫が見た、妻とタクシー運転手の関わり。捨てられた美猫を守ろうと奮闘するブサイク猫マツオカ…。猫と女をテーマにした7つのショートストーリーと軽妙なエッセイ。天才ムロイのおかしくも哀しい新境地。


「やっぱり猫が好き」室井滋さんの猫づくしの一冊。室井さんの猫好きはこれまでのエッセイでも垣間見られていたが、本書はその一面を究極的に追求した本作りになっている。通常のエッセイである「猫随筆」と、その後にエッセイの内容に関連した小説(ショートストーリー)の「猫物語」が語られる。この2つを1つのユニット(第○夜)とし、全7夜が収録されている。1日1夜、1週間かけて読むのも面白いかもしれない。また本書の猫づくしは、室井さん本人による表紙イラスト(文庫版)や、これまたご本人撮影の多くの猫写真にも徹底されている。猫よりも室井さんが好きな私でも、猫の魅力の一端を知った気になれた。
猫づくしの一冊ではあるが、猫ってこんなに可愛いの、ウチの猫なんてね〜、といった猫賛美の本にはなってはいない。むしろ、猫を飼うことの難しさや責任感などを考えさせられた。そこが「ブルース」たる所以か。猫と暮らすには、お金もかかるし、病気にもなる、外猫は誰かに悪意を持たれるかもしれないし、もちろん飼い主ともども死からは逃れられない。人間様の暮らす世の中はとかく猫には行き辛かろうと思うほどで、猫の幸せとは何なんだろうと悩んでしまった。その問題に繋がるのは人間や愛情の持ち方やバランス感覚などで、猫が好きな人間の側の自制について考えさせられた。猫が好きだからといって、己の金銭的、暮らしの限界を超えて猫と暮らし始める猫屋敷や、愛情の表現として服を着飾ったり、人間と同じ食事を与えてみたり、途中で飼育を放棄したり、と猫本来の生き方を変えてしまったりする問題にも言及している。一方的な愛情と、猫の幸福がイコールで結ばれないのは、その猫にとって不幸な幸福だ。室井さん自身はそのような歪んだ愛情を持っておらず、猫第一の自然な生き方をまず考えていて、そこに私は安心した。彼女の家にいる猫は幸せだろう。
小説「猫物語」の正直な感想は、室井さんのエッセイと小説を比べるとエッセイの方が断然上手いと思った。まず上記の通り、エッセイに即した内容の小説であるため、既視感が生まれてしまうのもいけない。同じ内容でも人の視点と、猫からの視点に分かれているので、猫から見た人間の滑稽さや、人とともに生きる悲哀などがより感じられるようにはなっているのだが、それも室井さん視点の猫目線だと感じられてしまう。室井さんの場合、事実は小説よりも奇なり、を地でいくお人だから、作られていない現実の変人たちの方が面白いと感じてしまう。そしてその猫目線がもう一つの欠点。どの猫も語り口調が同じで画一的な表現がされていて、その猫の個性の違いというものが見えなかった。ショートストーリというのも裏目に出たのか、話の流れやその猫の境遇など状況説明ばかりが勝っていて、室井さんによる筆の味わいがなかったなぁ。そんな中、1,2話目は展開にも小説的な工夫があって面白かったのだけれど。小説家・ムロイはまだまだ鍛錬が必要なのか。今度は是非、エッセイ抜き、猫も抜きの短編集など読んでみたいですね。そういえば宮部みゆきさんとの共著『チチンプイプイ』でも挑戦してましたね、小説。

マーキングブルース 猫にまつわる七つの物語   読了日:2013年05月01日