《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

(I)石田衣良先生 (W)私が間違っていた (G)ごめんなさい (P)ペッコリ45度

自分が誰なのか確認するために、まわりのすべてを数え続ける少年・ヒロキ。その笑顔は十歳にして一切の他者を拒絶していた。マコトは複雑に絡んだ誘拐事件に巻きこまれていくが…。池袋の街を疾走する若く、鋭く、危険な青春。爽快なリズム感あふれる新世代ストリートミステリー、絶好調第2弾。


シリーズ第2弾。マコトと池袋の1年が再び始まる。本書を読む限り、ファッション誌のライターの仕事も順調な様子からして作中も時間が流れているようですが、すると最新刊ではマコトは一体幾つになっているのでしょう。怖いけど楽しみ。
作家・石田衣良の実力を思い知らされた一冊。私は石田衣良さんのルックスや頭の良さをアピールする自己顕示欲みたいなもの(テレビ出演等(オファーを断らないだけと話していたような覚えもある))が苦手で、小説もその一つのツールに過ぎないのかと考えていた。が、改心して回心してしまうかもしれない。もし本書の単行本出版時('00年)に本書を読んでいたら大ファンになって、直木賞受賞の際には、ほら見ろ!と鼻をおっぴろげて自分の慧眼を自慢していただろう。…って、ドラマ化が本書出版前なので、もう十分メジャーだったのか。すごい慧眼だな、TBSドラマは。
私が感心したのは凝った比喩や表現、物事の核心を突く風刺が1ページに1回は必ず見受けられるというところ。上記のような思いを抱えた私が、惚れ惚れと見入ってしまった。間違いなく小説家で、本書を読めば遅かれ早かれ文学賞を獲ると思える(その後は知らないが)。
私はマコト好きだから、マコトの身ばかり案じてしまう。人気作に躍り出たというメタ的視点も踏まえると、彼が活躍するという事は、彼に厄介ごとが増え、そして幾つかで悲嘆に暮れなければならない宿命があるのだ。早く自由にしてやりたいぐらいだ。そしてマコトは素人らしく、かなりの確率で初手を間違える。誰も対処した事のない問題に対峙するのだからと擁護もできるが、穏便にいこうとして被害や暴力が拡大するのは彼の悪癖だと思う。本書最後の短編の感想にも書いたが、マコトは幸せになれない宿命なのだろうか。
あと、もう一つの問題はマコトが作者の分身過ぎる点だろう。クラシックから文学まで彼の知識は無限に増えそうな予感がする。これも自己顕示欲?

  • 「妖精の庭」…まだ秋とは言えない秋。ネットのライブカメラの1番人気・アスミがストーカー被害に悩まされて…。初出は99年9月の雑誌。ネットとストーカー、この題材をこの時期に見つける嗅覚だけでも凄い。一方で10年以上経ってもストーカー対策が施されない社会に幻滅する。高尚過ぎるが、加害者を名前で呼ばずニックネームで通すのが、名前も呼ぶ価値のない男と感じられ爽快。ラストのマコトの激励の言葉のチョイスは、彼の頭の回転の速さ、人の心を読む優しさなどが表れていて好き。その後の期待に沿わない皮肉な結末も割りと好き。
  • 「少年計数機」…皆が浮かれる冬。IWGPで出会った世界を数字で捉えるヒロキ、その彼が誘拐事件に巻き込まれ…。マコトにはいつも懐の広さを感じる。自分の存在価値を最小ぐらいに考え、偏見や先入観にとらわれず人と接する。同じく不器用な優しさしか持てないヒロキとの交流にそんな事を感じた。しかし私はマコトがすっかり好きだから危うい仕事には手を出して欲しくないと甘い考えも同時に抱く。人の、読者の欲望は果てしないから、それに呑み込まれそうで心配。
  • 「銀十字」…あけぼのの頃にクリーンな春。連続多発する引ったくり強盗事件。事件が原因で複雑骨折した女性のためとマコトを訪れたのは…。遂に老人まで仲間に引き入れるマコト(逆か(笑))。この話もマコトの懐の深さを感じた。事件としては地味だけど(と言ってしまう自分が怖い)、滋味な作品。犯罪とはそういうものなんだけど、どの短編も目的の為には手段を選ばない、(典型的な反省しない若者に限らず)被害者の事など考えない身勝手さに溢れている。いよいよ老人の出番か。
  • 「水のなかの目」…心ばかりが冷えきる夏。豊島区周辺で多発する「大人のパーティ潰し」。徐々に手掛かりを見つけ、追い詰めるマコトだったが…。本書で一番長く、一番重い内容。現実の事件を基にしているので映像化などは難しいが(見たくもないが)、映画版「IWGP」といった印象の作品。犯人との対峙場面が映像的で印象的だったからかな? ラストのマコトの行動は衝撃的で賛否両論だろうが、陰惨な事件の後では(小説の中といえど)安心したのは事実。マコトこそ、人に情を持つとその人が不幸になってしまうのではないかと彼の精神を心配してしまう。

少年計数機しょうねんけいすうき   読了日:2013年04月30日