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四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)

私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい!さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。。


この世に生を受けて四半世紀近く経った青年の悲しき四畳半人生。本書もデビュー作『太陽の塔』と同じく、作者の学生時代の私情が半分入ってそうな私情半の主人公である(く、苦しい…)。四畳半の世界で青年よ神話になれ!
本書は短編集だと見せかけた変則的長編である。時をかける青年が、自分の人生を俯瞰して達観して諦観する物語。そして本書はなんと、森見さんらしからぬ(?)友情と愛情の物語である。本書では主人公がいかにして掛け替えのない友人と恋人を得たのかが語られる。物語の中で、ある日突然に物体は消失し、蛾は大量に発生する。荒唐無稽ながら因果応報、並行世界の絶対運命黙示録。そう、絶対運命なのだ。掛け替えのないのは友と愛だけではない。この自分も唯一無二の二進も三進もいかない存在なのだ。守りたい、たった一つの友情と愛情と純情な自分。
理想の人生とはどんなものなのか、それを得られるチャンス・人生の転換点はどこにあったのか、自分を今の状況に追いやったのは原因は何であるか、そして自分という存在の根源は何か…。ふと立ち止まって(多くは苦境から身動きがとれなくなって)、こんな事を自問自答する人は多いと思う。本書の主人公の場合、理想の人生とは「薔薇色のキャンパスライフ」であり、転換点はキャンパスライフの出発点・サークルの選択であり、自分を苦しめる原因は小津だった。しかし彼は気づいていない、彼の人生は彼抜きでは絶対に語れない事を…。
最後の短編で自分を、自分の絶対運命を受け入れた彼は以前よりも強くなっているはずだ。夢見た「薔薇色」が自分の色だとは思わないからだ。この世は『カラフル』で、自分の色を見つけるのが人生なのだから。
ラストが堪らなく良い。同じような未来で語られる同じような言葉、しかし含まれてる意味は全く違う。絶対運命の先のちょっと広くなった世界が彼の眼前にはある。四畳半の狭小な世界の物語ながら、前向きに四畳半の扉を開こうと思える物語だった。 森見さんの四畳半の世界は、ともすれば独りよがりの子供っぽい(学生っぽい)世界になりそうだけど、客観的自虐というべき距離の置き方で愛すべきバカを創出している。もちろん文章の紡ぎ方・言葉遊び・広範な知識も垣間見られる。狭くても深遠な思考世界がモリミーの魅力。只者ではありません。

四畳半神話大系よじょうはんしんわたいけい   読了日:2007年08月11日