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オトコも歩けば恋(鯉)に当たる。故意の御都合主義!

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」…「黒髪の乙女」に片想いしてしまった「先輩」。二人を待ち受けるのは、奇々怪々なる面々が起こす珍事件の数々、そして運命の大転回だった。天然キャラ女子に萌える男子の純情。キュートで奇抜な恋愛小説in京都。


2008年最初の読了本。噂に違わずオモチロイ!! 先の読めない荒唐無稽な展開も全ての事象が収斂するラストの大団円とカタルシスも、いわゆる神(登美彦氏)の御都合主義。『神様も我々も、どいつもこいつも御都合主義者だ』。
森見さんのデビュー作『太陽の塔』が失恋という恋愛の終着駅から諦め悪く逆走する話ならば、本書は恋愛の始発駅を目指そうにも車庫内をいつまでもウジウジとグルグル回っているようなお話。細かすぎて伝わらない恋の一手を独り打ち続ける主人公。その片想いの相手は「黒髪の乙女」。酒にも負けず 風邪にも負けず 神様から祝福を受ける天真爛漫な部活の後輩。今日も彼女の後姿を追って京の都を東奔西走、縦横無尽。果たして彼の妄想特急の行き着く先は…。
「黒髪の乙女」もさる事ながら愛すべきは、精一杯に奮闘した「先輩」こと主人公であろう。例えその努力が出発点から目的地へ最長距離を取るような手段であっても彼は頑張り続けた。もしも最初から「先輩」と「黒髪の乙女」が互いの『運命の人』として描かれていたなら、好ましいはずの御都合主義も決定的な瑕疵に変わるはず。けれど本書では物語の幕開け、第一章では「先輩」と「黒髪の乙女」の距離は物理的にも心理的にも果てしなく遠い。しかし主人公は不屈の精神で「黒髪の乙女」との距離を一歩一歩着実に縮めていく。たとえオトメが歩き続けたとしても、オトコはそれ以上の速度で近づく努力をすればいつかは追いつけるのだ。
本書で経過する時間は『新緑も盛りを過ぎた五月の終わり』から『一年で一番、長い夜』の冬至の日までの七ヶ月余りなのだが、主に語られるのは1編につき1日のみ。先斗町の夜、下鴨神社の古本市、学園祭の最終日、そして冬至。この四日が彼にとって「四日間の奇跡」になる。四日間、一日中「黒髪の乙女」を追いかける「先輩」だが彼女に漸く会えるのは決まって夜になってから。しかしそれが(ネタバレ→)最長の夜が明け『白い朝の光が、彼女の黒髪を照ら』すのを見た後には、彼女と白日の下での対面を約束する(←)という素晴らしく心憎い構成。もう満足感と爽快感で胸がいっぱいです。夜は短し、でも昼は結構長いかもしれないよ。
本編とは関係はないが第二章「深海魚たち」で少年が語る「本のつながり」の話には感動すら覚えた。『本たちがみな平等で、自在につながりあっている』かぁ。あぁなんという精神の豊かさ! 読了して分かる章の題名も趣がある。全章で一番好きなのは第三章「御都合主義者かく語りき」。『目的地から真逆の方角へ全力で走っている』似た者同士の男が二人。そして「偏屈王」を巡る二つの大団円。あぁなんという御都合主義! 全編を通して残念だと思ったのは京都の地図が私の頭に入っているともっと面白いだろうな、の一点のみ。あと、今となってはどうでも良い事だけど「黒髪の乙女」って未成年だよね…? なむなむ、ご都合主義!!

夜は短し歩けよ乙女よるはみじかしあるけよおとめ   読了日:2008年01月02日