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太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。


「恋愛の記憶」においての男女の性差を表す言葉に、「男はフォルダ保存、女は上書き保存」という素晴らしい格言があるが、本書の主人公は、その恋愛フォルダを後生大事に抱え込んでしまったが故に身動きのとれなくなった典型的な男である。彼の不幸の発端は「水尾さん」というフォルダが作成されてしまった事だろう。男の恋愛フォルダは一度作成されたら、削除は不可能なのだ。それは不可逆の経験。一時期、恋愛に溺れてしまった自分、女性に耽溺してしまった自分。それが彼を恥辱の海に引きずり込む。彼は世界に一つだけのフォルダに、今からでも愛情を注ぎ込めばフォルダ内に新しいファイルが出来ると思っている。失恋的悪循環。ずっと浄化されずに濁ったままの男汁が彼の体内を駆け巡る…。
冒頭から素敵である。「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ」だもの。彼らの頑なな主張と現実とのギャップはドストエフスキー『罪と罰』ラスコーリニコフを連想した。共通点は自分の崇高さを証明しようとして失敗した男たち。ラスコーリニコフは殺人に、彼は恋愛に手を染めた。だが、その経験から見えた物は矮小な自分。高みにいるはずの特別な自分の実態は、一般と変わらない。ただ、冒頭から彼(ら)には聞こえているのだ、己(おの)が心の声が。それを分かりきった上での自己矛盾・二律背反が奇妙なおかしさを誘う。へもい男は少しかわいい。ラスコーリニコフもかわいい?
(自分の知識不足からの)コンプレックスで衒学的文章だと思う箇所もあったけれど、素直に面白い比喩を使うなぁとも感心した。12月の京都の街並みの描写も面白い。1000年の歴史と日本古来の神、それを猛然と駆逐するキリスト教の祭典。
欠点を言えば、物語としては少し盛り上がりに欠けるところだろうか。
この作品を読んで森見さんは私の好きな人物の系統に繋がる人だと思った。妄想力と、その方向性いう点では「伊集院光」さんを連想し、虚実入り混じった森見さんの日記は「乙一」さんに似てる思うし、男という生き物の哀しさを描くという点では「穂村弘」さんっぽい。本人やファンからは一緒にしないでくれ、と言われそうだけど、私はそう思った。それはつまり私にも似ていて、過剰な自己愛によって彼に惹かれているのかもしれない。認めたくないけど…。

太陽の塔たいようのとう   読了日:2007年01月08日