カクレカラクリ An Automaton in Long Sleep (MF文庫ダ・ヴィンチ)
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2009/08/21
- メディア: 文庫
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廃墟マニアの郡司朋成と栗城洋輔は、同じ大学に通う真知花梨に招かれて鈴鳴村にやって来た。その地にある廃墟施設を探検するためだ。だが彼らを待ち受けていたのは奇妙な伝説だった。鈴鳴村にはかつて天才絡繰り師が住んでいたが、120年後に作動するという絡繰りを遺してこの世を去った。今年はまさに絡繰りが作動するその年にあたるというのだ! 2人は花梨と妹の玲奈の協力を得て、隠された絡繰りを探し始めるのだが…。
内容は村に隠された「隠れ絡繰り」を探す、という単純なもの。単純なだけに彼らの冒険に発見に卓見にワクワクした。大人と子供の中間、モラトリアム冒険小説といった感じだ。彼らの行動は、そこはかとない青春のにおいがする。暑いけれど涼しい村での、冷静な情熱の物語。こんな夏休みを過ごしたい!と思う小説です。夏にピッタリ。読書時には右手に本を、そして左手にはもちろんコカ・コーラを(笑)
しかし、肝心の「隠れ絡繰り」が、120年前の天才・磯貝機九朗の作品にしては、どうも完成度が低いような気がした。120年前とはいえ、時の流れという変化を考慮に入れてない、やや安直な思考だ。中盤で否定した可能性が、結局、採用されている訳だし…。村全体を巻き込んだ途轍もない仕掛けを予想していただけに、ちょっと期待外れ。壮大な絡繰りを連想させる伏線の数々だっただけに、意外とこじんまりとした仕掛けだったなぁ…(それでも十分に大きいのだが)。
とは言え、120年という時の流れにロマンを感じた。自分が死んだ後に動き出す絡繰りを作る、120年後に確実に動くかは分からない物を作ろうとする意志、確かにそれは絡繰りそのものの技巧よりも美しい。また、そこに感動する人も、その時間と意志を正確に汲み取れる人だろう。それは人という絡繰りの知性の働きでもある。そして、隠されていたのは、メカニカルなカラクリだけではなかった…。
冒頭の花梨と、郡司たちから見るの花梨が違う気もするのだが…。まぁ、外面と内面は違うって事か。章冒頭の文や、作中の文章・会話などに森博嗣らしい思考が隠れているのが良かった。本の価格も安いし、かなり満足な一冊。コカ・コーラもそれほど不自然には出てこないし。ただ、長時間持ち歩くと炭酸が抜けるし、ボトルの中で雑菌も繁殖するのではないか、と心配ではある。郡司や栗城といった素直なキャラクタたちが気に入ったんで、続編があったらいいな。次作のタイトルは「バレバレカラクリ」で。最初から村の中央にドーンと置いてあるの(笑)