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ある世界の、あるルールの、ある盲点。

女王の百年密室―GOD SAVE THE QUEEN (新潮文庫)

女王の百年密室―GOD SAVE THE QUEEN (新潮文庫)

2113年の世界。小型飛行機で見知らぬ土地に不時着したミチルと、同行していたロイディは、森の中で孤絶した城砦都市に辿り着く。それは女王デボウ・スホに統治された、楽園のような小世界だった。しかし、祝祭の夜に起きた殺人事件をきっかけに、完璧なはずの都市に隠された秘密とミチルの過去は呼応しあい、やがて―。神の意志と人間の尊厳の相克を描く、森ミステリィの新境地。


これはすごい! 終盤に明かされた真相を見たら鳥肌がたった。この作品に出会えたことを感謝です。近未来SFとミステリの完璧なる融合です。「ある世界の、あるルール」の中で起きる事件を解決する、これはなんとなく「西澤保彦」さんの作品全般と共通した作りのような気がします。こういう作品の場合、作者に読者をその世界にスムーズに導く度量がなけれ、なかなかついていけないんですよね。設定とか世界観とかを巧く読者に染み込ませなくてはなりませんから。この作品はそれが自然で、自然であるからこそ真実に驚き、かつ納得してしまいました。カタカナ名も物語が進めば、人物イメージが先行して苦ではなかったし。「目にすれば失い、口にすれば果てる」はこの小説世界を端的に表すとんでもない名言だと思います。誰も嘘をつかない、けれど誰も真実は話さない、この世界が私は好きです。
この作品は森さんの近未来のビジョン。もちろん特殊な「死」のルールなど変わったものも存在しますが。紙媒体ではない書物の存在・ウォーカロンというロボットの進化形などなど、森さんの考える100年後の未来の一部。また連続殺人鬼マノ・キョーヤの存在も物語をピシリと引き締めていて、作品への緊張感を保ち続ける一因です。

女王の百年密室じょおうのひゃくねんみっしつ   読了日:2001年07月26日