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レタス・フライ Lettuce Fry (講談社文庫)

レタス・フライ Lettuce Fry (講談社文庫)

西之園萌絵は、叔母を連れて白刀島までやってきた。加部谷と、この島の出身者である山吹、海月と合流し、夕食の席で、島の診療所に女性の幽霊が出るという噂話を耳にする。(「刀之津診療所の怪」)。ほか「砂の街」、文庫版に初収録の「ライ麦畑で増幅して」など、煌めく魅力を湛えた、全10作の短編を収録。


最初と最後の短編の評価は8点、他は4点ぐらいです。途中まではこのまま終わるのか、と絶望感に襲われたのですが、最後の1編を読み終わったらにやけていた。これはズルイ。ファンなら『自分の顔に笑みが広がっているのがわかる』でしょう。だからといって全てが帳消しにはなりません。この作品集に900円の価値があるとは私には思えない(ページ数・文字量・内容において)。『透明感に満ちあふれた』作品というよりも空虚。ただ物質が存在しないだけです。そう思ってしまう。
元々、森さんの短編は苦手だったのですが、今回、初めて収録されるショートショートはもっと苦手かもしれない。そして最近は長編の方も心躍らない。昨年、著作の多くを再読して「森博嗣熱」がぶり返したと思ったのに…。森さん自身は手を抜いている訳ではないんでしょうが、どうも腑抜けた印象が残る。

  • 「ラジオの似合う夜」…一度、通読した後、最初から読み返しました。相変わらず察しの悪い私だった。途中までなんだこの男は!と怒ったりもしたんですが…。この事件の真相も、物語の構成も淡々と仕掛ける森さんは好きなんですよ。
  • 「檻とプリズム」…すごい仕掛けがあるのかと思いきや…。こういう結末は森さんの短編のパターンと言ってもいいかもしれない。尻すぼみ、思わせぶり。
  • 「証明可能な煙突掃除人」…ショートショートの中では好き。それっぽいし。
  • 「皇帝の夢」…やっぱり詩的な森さんは私的には理解できません、ジャック。
  • 「私を失望させて」…「水柿くん」でやってよ、こういうのは。なら怒らないからさ。
  • 「麗しき黒髪に種を」…ミステリを期待してるんですよ、少なくとも私は。
  • 「コシジ君のこと」…どこかで読んだことありそうな話。森博嗣らしさゼロ。
  • 「砂の街」…これをショートショートではなく一編と呼ぶのはどうかな…?これは森博嗣の「短編集」なのだ、と強く思わずにはいられなかった。理解できません。
  • 「刀之津診療所の怪」…掉尾を飾るとはこのこと。いや「竜頭蛇尾」ならぬ「蛇頭竜尾」かも。私の長年の(?)願いが叶いました。そうか、未来はこうなるのかぁ…。この作品を真価を知るには何作読まなきゃならないんだ? この商売上手。でも、もっと商業抜きの作品が読みたい。
  • ライ麦畑で増幅して」…文庫版のみ収録。秘書として働いていた組織の代表が急逝して…。見た目重視でノックアウトされて、それでいて潔癖なのね。かなりこの人の事を、ちょっとシリーズの事を好きにしてくれた短編。

レタス・フライ   読了日:2006年05月02日