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日本殺人事件 (創元推理文庫)

日本殺人事件 (創元推理文庫)

憧れの日本にやってきた私立探偵のトウキョー・サム。しかし、そこは、サムライが生き、茶道がもてはやされ、遊廓が栄える不思議な国だった―。奇妙なハラキリ事件、茶室の密室、そしてオイラン連続見立て殺人と、数々の超ジャパネスクな難事件に挑むサムと不思議の国の住人たち…。かつてない究極の本格謎解きミステリー!!日本推理作家協会賞受賞作。


文庫版解説で宮部みゆきさんが書いている通り、山口雅也さんは『自らの世界を完璧につくりあげ』る人である。私がよく使う言葉では「ある世界の、あるルール」の作家さん。以前、読んだ「生ける屍の死」は、そのルール設定が活かされていた典型的な作品である。 では、この作品はどうか?というと、私は正直、戸惑うばかり。「ある世界」の創造は、とても面白い。型破りな日本の描写には笑わせられるし、転じて本来の「日本の型」を考えてしまう。けれど「あるルール」という点では、十全に機能してるとは思えない。独特のルールの盲点を指摘するのが、この種のミステリの楽しさなのだけれど、今回はルール説明が不十分のまま真相解明になってしまう。歪な世界が歪のままで消化し切れなかったのが残念です。

  • 「覚書き」…この本の由来と、この世界のルールの説明書。頭に入れておこう。
  • 「微笑と死と」…優しかった義母の母国・日本に来たトウキョー・サム。が、泊まった宿で、ハラキリの現場を目撃する…。この世界の奇妙な仕来りと日本人の精神が事件を違った視点へ導く。しかし、この本の事件は後もそうだが、後味が悪い。
  • 「佗(わび)の密室」…念願かなってお茶会に出席する茶夢(サム)。が、その会の直後、密室状態の茶室の中で亭主が死んでいた…。茶会での殺人と言えば東野圭吾さんの『卒業』を連想しましたが、それとはまた違った使われ方。その道、独特の精神が発端の事件は面白いのだけれど、今回は観念的すぎる…。
  • 「不思議の国のアリンス」…トウキョー湾に浮かぶクルワ(廓)島。そこはオイラン(花魁)のいる日本独特の公娼地帯。そこへ連れられたサムはオイランの奇妙な見立て連続殺人に巻き込まれる…。てっきりサヘイジは伏線だと思ったのだけど違いました。動機は、この世界では理に適っているのだろうけど、そこまでこの世界に染まれなかった私には理解し難かった。「ルール」の後出しもダメ。
  • 「南無観世音菩薩」…エピローグ。カンノン様に始まってカンノン様で終わる。この構成は好きです。短いながらも、しんみりさせられる(前の話があってこそだが)。

日本殺人事件にほんさつじんじけん   読了日:2006年02月16日