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かまいたち (新潮文庫)

かまいたち (新潮文庫)

夜な夜な出没して江戸市中を正体不明の辻斬り「かまいたち」人は斬っても懐中は狙わないだけに、人々の恐怖はいよいよ募っていた。そんなある晩、町医者の娘おようは辻斬りの現場を目撃してしまう。サスペンス色の強い表題作はじめ、純朴な夫婦に芽生えた欲望を描く「師走の客」超能力をテーマにした「迷い鳩」「騒ぐ刀」を収録。宮部ワールドの原点を示す時代小説短編集。


現代物の宮部作品は少年が主人公の場合が多いが、時代物の場合は少女が主人公である場合が多い。本書でも2編目を除いた短編の視点は少女のものである。また同じく2編目を除いた短編には主人公の片親・両親ともが不在であり、解説の言葉を借りるならば現代物と同じく家庭に『欠損』がある。時代物の少女たちには自由に生きられない時代という壁も存在する。また3,4編目の主人公・お初には霊能力(=現代物の超能力)が備わっており、その能力により過剰な情報を得てしまう。それらの『欠損』や過剰が少女たちを半ば強制的に大人にさせ、強く生きる為の聡明さを与える。その構造は現代物と全く同じである。
3,4編目、お初が主人公の短編は後に設定を一部変えて「霊験お初捕物控」として長編作品としてシリーズ化される事になる。数年前に長編を読み、今回ようやく原点である短編を読んだ私は2番目の兄の存在にビックリさせられた。3兄妹の設定も役割分担のバランスが取れていて面白かった。2番目の兄の性格や聡明さの一部が古沢右京之介に受け継がれているのかな?

  • かまいたち」…表題作。あらすじ参照。私の読解力不足で見事に騙された作品。真相は倒叙作品のように序盤で明かされていたのですね…。けれどそのお陰で、主人公おように危険が迫るサスペンスの緊張感と意外な真相が待ち受けるミステリの醍醐味、その両方の楽しみを味わうことができました。全体的に暗く嫌な事件ですがラストの一文でパッと明るくさせるのが宮部さんらしい。
  • 「師走の客」…毎年師走の一日にやってくる客は宿賃の代わりに次の年の干支の金細工を置いていく。今年は6年目の巳なのだが…。旨い話には裏がある。そして裏には裏がある巧い短編。詐欺師の側も信用を得る為に長い準備期間を要していて、詐欺が一攫千金の手段というより地味な営業活動に思えてくる。
  • 「迷い鳩」…円滑な商いをしていた老舗の問屋。しかし、その入り婿が原因不明の病に倒れてから、問屋全体に凶事が続き…。悪霊が憑いたような現象への京極堂的な合理的解決が面白い。なるほど、悪霊のようなトリックだ。2編目に続いて現代にも通じる犯罪手段である。この短編では、この世ならざるモノは登場せず、お初の霊験は万能ではなく事件の端緒を掴む能力になっている。
  • 「騒ぐ刀」…流れ流れてお初の家で預かる事になった一本の脇差。その刀の刃は何も切れず、更には「ものを言う」のだった…。妖刀を巡る因縁話。どこか漫画的な設定・展開で物語が先行し過ぎているきらいがある。その原因は何かと考えてみると、事件とお初の距離の遠さだろうか。本編ではお初の超能力者としての苦悩が少なく、事件が他人事に思えた。また刀が暴力的過ぎて人情が二の次に。

かまいたち   読了日:2008年02月17日