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今夜は眠れない (角川文庫)

今夜は眠れない (角川文庫)

母さんと父さんは今年で結婚十五年目、僕は中学一年生でサッカー部員。そんなごく普通の平和な我が家に、ある日突然、暗雲がたちこめた。"放浪の相場師"とよばれた人物が母さんに五億円もの財産を遺贈したのだ。お隣さんや同級生は態度がかわり、見ず知らずのおかしな人たちからは脅迫電話があり、おまけに母さんの過去を疑う父さんは家出をし…。相場師はなぜ母さんに大金を遺したのか?こわれかけた家族の絆を取り戻すため、僕は親友で将棋部のエースの島崎と真相究明の調査にのりだした。


宮部さんの少年愛に溢れた作品(笑) 鳶から生まれた鷹、親友・島崎の知識量も凄いが、主人公・雅男もありえないぐらい物分かりが良い。「大人の事情」に全く察しがつかない程に子供でもなく、それを全て自分で消化出来るほど大人でもない。そんな少年たちが突然訪れた非日常から「世間」を知っていく物語。
突然5億円が舞い込む、という起きながらにして見る夢のような幸運が、次第に周囲や家族の妬み・嫉みという現実に直面して、おちおち眠れなくなるまでに不幸の種に変わっていく様をコミカルに、しかし辛辣に描いている。本書の場合、遺贈された5億円は決して悪銭ではないのが「悪銭身につかず」という諺のように、来歴のハッキリしない疑惑のお金は(表面上は)穏やかだった家庭を内部分裂させてしまう。まさに悪貨は「良家」を駆逐する。作中の人物ではないが、宝くじなどが当たってしまって右往左往、人生を狂わす人も少なくないのだろう。
私の場合、ミステリの最初の100ページは物語に入り込めなくて苦労する事が多い。が、宮部作品にはそういう心配はない。魅力的な登場人物、シンプルに見えるが練られたプロット、多様な文章表現によって、壁は簡単に乗り越えられてしまう。ここ数ヶ月、連続して宮部作品を読んでいるが、作品毎に趣向が違って飽きない。本書は中学生・雅男視点の物語という事もあって文章表現が特に面白い。人が考え事や沈黙する時間の表現、彼が出会う人の人物描写が独特だった。
物語は、中盤に結成された雅男と島崎の「少年探偵団」が最後まで「5億円事件」の真相を暴くのかと思っていたら、事態は予想外の方向に進み、事件は××が勝手に解決してしまった。もちろん「少年探偵団」だけの活躍もあるし、予想外の展開をするからこそ生まれる面白さもある。けれど後半戦の前半までと、後半戦の後半の温度差が少し気になった。後半は計画的犯行の割に、偶然の要素が多いような気がする。もっと2人の少年の会話や活躍が見たかったかな。

今夜は眠れないこんやはねむれない   読了日:2007年02月05日