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返事はいらない (新潮文庫)

返事はいらない (新潮文庫)

失恋からコンピュータ犯罪の片棒を担ぐにいたる微妙な女性心理の動きを描く表題作。『火車』の原型ともいえる「裏切らないで」。切なくあたたかい「ドルシネアにようこそ」など6編を収録。日々の生活と幻想が交錯する東京。街と人の姿を鮮やかに描き、爽やかでハートウォーミングな読後感を残す。宮部みゆきワールドを確立し、その魅力の全てが凝縮された山本賞受賞前夜の作品集。


↑の「あらすじ」にある「山本賞受賞前夜の作品集」という言葉は単なる宣伝文句かと思っていましたが、嘘ではありませんでした。この「山本賞受賞」した作品こそが、現代のカード社会の危険性を描いた『火車』である。
本書の中でも幾つかの短編でカードが登場する。カードを作ればお金が手に入り、憧れの生活を手に入れる事が出来た時代。望めば望むだけ金が湧き出てくる虚飾に満ちた東京の姿はどこかバブルの臭いがする。そんな中でも地に足を付いたままの主人公たちが冷ややかに見つめる東京の姿とは…。
主に描かれている主題は、女性と金、女性と年齢、女性と仕事、東京と下町の姿。印象的だったのは「裏切らないで」の「果たして、東京なんて街は実在しているのだろうか。そんなものは、この種の雑誌やテレビで創り上げられた幻に過ぎないのではなかろうか」という文章。これは「先生…、現実って何でしょう?」「現実とは何か、と考える瞬間にだけ、人間の思考に現れる幻想だ。普段はそんなものは存在しない」という森博嗣さんの『すべてがFになる』の言葉と同じだ。「ない」ものを「ある」と思い込んで追い続けてしまった事が彼女たちの不幸かもしれない。
ただ全短編のテーマが似通っているので、後半になるほど新鮮味はなくなるかも。統一性があるとも言えるけど、毎日カレーの気分でもある。

  • 「返事はいらない」…失恋からある犯罪の片棒を担ぐ決意をした女性。その犯罪はキャッシュカードの脆弱性を付いたもので…。こんな短い作品の中でカード社会の裏側と大胆な犯罪、そして粋な結末を用意できる手腕に脱帽。いや、恐ろしい。
  • 「ドルシネアにようこそ」…六本木にあるディスコ「ドルシネア」。そんなきらびやかな世界とは縁の無い青年の一つの習慣とは…。無機質な都市の中での素敵な出会いと見せかけて、その牙に噛まれた主人公。と見せかけて素敵な出会い(笑)
  • 「言わずにおいて」…課長を罵倒した夜、聡美の目前で起きた自動車事故。その直前、運転手は自分を指差していた…。課長の言葉だけでなく、事件の真相を突き止めた事にも聡美の有能さが出ている。現代なら課長こそ左遷だろうか…。
  • 「聞こえていますか」…老人が孤独死した後、その中古物件に引っ越してきた勉。彼は家に残ったままの電話の中からある物を見つける…。途中の推論よりも真相の方が辛い。家族なのに分かり合えない、家族だからこそ分かり合えない。
  • 「裏切らないで」…深夜、歩道橋の上から落ちて死んだ若い女性。彼女の素性は明るくも暗いものだった。彼女が死んだ理由とは…。上で引用した言葉が全て。物語よりも現実に浮ついた時代を生きた人たちは今、何を思うのかを考えた。
  • 「私はついてない」…借金の形に同僚女性に婚約指輪を取り上げられた従姉弟の逸美。彼女は何とかお金を工面しようとするが…。逸美姉さんの生き方はなんだかなぁ…。お灸を据えられて正解。ラストは別の意味で女性は怖い、という話。

返事はいらないへんじはいらない   読了日:2007年10月07日