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幻色江戸ごよみ (新潮文庫)

幻色江戸ごよみ (新潮文庫)

盆市で大工が拾った迷子の男の子。迷子札を頼りに家を訪ねると、父親は火事ですでに亡く、そこにいた子は母と共に行方知れずだが、迷子の子とは違うという…(「まひごのしるべ」)。不器量で大女のお信が、評判の美男子に見そめられた。その理由とは、あら恐ろしや…(「器量のぞみ」)。下町の人情と怪異を四季折々にたどる12編。切なく、心暖まる、ミヤベ・ワールドの新境地。


第一話「鬼子母火」の師走から始まり、第十二話「紙吹雪」の師走で終わる全12編。本書では登場人物の多くが何かを失っている人が多かった様に思う。家族、健康、容姿、恋、生き方。彼らの心にポッカリ開いた穴に、悲しみが、そしてこの世の者ならざる存在が入り込む。そんな欠けた心の悲しみが物に宿る話も多かった。その悲しみは次の悲しみに連鎖する。それらの話は切ない。
しかし同時に親が子に、年長者が年少者に何かを伝える作品が多かった。年長者は幼い頃の自分の事を話し、これからの人生の道標を、心の隙間を埋める術を与える。これらの良き方向を指し示す話はとても心が暖まる。
本書では「神無月」だけでも読むべし。作品の持つ緊迫感とテンポ、同情と人情、その幕切れ、どれを取っても素晴らしい。欠けた心で見誤る道標、それは転落への序曲でもある事を男は知らない。そして男の生き方を正せる事の出来る世界でたった一人の人物。サスペンス・ミステリとして忘れられない一編。
ただし、本書は一編が短い事もあって物語がやや駆け足に語られる。全体的に宮部作品らしい文章や設定をお見受けできなかった気がする。怪異譚が単純明快な答えばかり求めてしまう私の安直な性格に合わなかったのかも。

  • 「鬼子母火」…師走の二十八日に起きた小火の火元には一本の髪の毛が…。うーん、一編目にしては微妙。ありがちな話。おとよの人間の大きさに感服。
  • 「紅の玉」…初午、病床の妻を抱える飾り職人に、御政道に反する仕事が舞い込み…。宮部作品では異質の結末。時代に、人に見放された誠実な男。
  • 「春花秋燈」…桜の季節、店主が客に語る行灯にまつわる曰くとは…。寝具の近くに置く闇を照らす物、という行灯の特徴から浮き上がる2つの影。
  • 「器量のぞみ」…あらすじ参照。これ好き。諦めていた幸福を手に入れた後に事の真相に至ったお信の繊細な女心が見られる。決断の時も過度な美談にならない時間差。でもある意味、お信が呪いの最大の恩恵者だったりもする…。
  • 「庄助の夜着」…七夕過ぎからみるみる痩せていく庄助はその重い口を開くが…。これも好き。リドルストーリー&夢現の境界上を行き来する感覚が◎。
  • 「まひごのしるべ」…あらすじ参照。盆市の翌日。歳を取らない子供、という謎から面白い。これまでで何組の「親子」が生まれたのだろうか、と天を仰いだ。
  • 「だるま猫」…秋。憧れの火消しに近づいたはずが、足は火事から遠のき…。これって『ドラえもん』の秘密道具みたいですよね。のび太くんの因果応報パターン。
  • 「小袖の手」…秋の彼岸すぎ、娘の買ってきた古着を反故にしてしまった母親の真意とは…。「庄助の夜着」と似た話。現代の古着でも因縁はあるのかな?
  • 「首吊り御本尊」…厳冬に店を逃げ出した小僧に大旦那が語る自分の昔話には…。大人物は下の者の教育も上手? 視覚情報こそ怖いがどこか滑稽な神様。
  • 「神無月」…8年続く神無月の押し込みに気づいた岡っ引きは犯人を思うが…。『名短篇、ここにあり』! これは極上のミステリ&サスペンス。追う側も追われる側もそこにあるのは人情だ。今月は神様がいない、だが人が人を救う事も出来る。
  • 侘助の花」…侘助の咲く頃、看板屋の元に生き別れの娘が名乗り出て…。当事者には間違いなく厄介で面倒な人、でもそうするしかなかった悲しい人。
  • 「紙吹雪」…師走、女中が主人夫婦を殺害。その後に女中が取った行動とは…。計画的な、必然の『罪と罰』。これで彼女は救われるのだろうか。

幻色江戸ごよみげんしょくえどごよみ   読了日:2010年07月07日