- 作者: 万城目学
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/07/09
- メディア: 文庫
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『鴨川ホルモー』でデビューの奇才、待望の初エッセイ集。オニを遊ばせ鹿に喋らせる、マキメ・マナブのマーベラスな日々が綴られています。●万博公園に出現したオレンジ色の巨大怪鳥とは!? ●係長から「マキメっち」と呼ばれるとき ●「この世に存在するはずのない曲」への想い ●負のカリスマ「御器齧り」との仁義なき戦い ●「オリーブの首飾り」を聞く小さな歓び ●カッパドキアで魅惑のハマムを…!? ●京都市が極秘裏に実行している防災計画について ●モンゴルで夢見たエコで優雅な遊牧民生活…。
デビュー作『鴨川ホルモー』はベストセラー&映画化、第2作『鹿男あをによし』は直木賞候補&TVドラマ化と、今乗りに乗っているマキメ氏の初エッセイ集。今まで私はマキメ氏を「奇想の人」だとばかり思っていた。奇抜な設定だけが目に付くという批判的な意味で。けれど本書ではマキメ氏の作品への真摯な態度、描写の上手さ、そして人生経験の豊かさが読み取れた。古今東西、マキメ氏の身に起きた様々な体験談・妄想を野放しにした実に下らない話から『ホルモー』や『鹿男』の創作秘話まで軽妙・巧妙・神妙を使い分けて綴っている。1冊読むとこれまで想像上の生物でしかなかった「マキメ・マナブ」の実態がつかめるような気になるが、まだまだその生態は分からない。読了してもマキメ氏は暗いんだか明るいんだかが分からない不思議な生き物だった(別にどっちでも良いのだけど)。
本書は章ごとに大まかなジャンル分けがされている。各章にはそれぞれタイトルがあるのだが、私が分かりやすいタイトルを付けるのなら1章「歌とマキメ」2章「作家(志望)マキメ編」3章「学生マキメ編」4章「働くマキメ編」5章「世界のマキメから」だろうか。この中で最も意外だったのが5章「世界のマキメから」。なんと学生時代のマキメ氏は世界各国を股に掛けていた男だったのだ。既存の作風から、てっきり四畳半で畳の目を数えて過ごした大学生活だと思っていたら、実は世界各国に出没していた。思い立ったが吉日で、憧れのモンゴル人に実際になろうと決意したマキメ氏の行動力には恐れいる。このモンゴルでの体験からマキメ氏が学んだ厳しい現実は、エコだのロハスだの言葉を変えてオシャレな流行にしよう画策する側・それに安易に乗る側、双方に読んでもらいたいものである。
マキメ氏の実体験話は思わず吹き出してしまうものが多いが、その対比で際立っていたのが2つの別れの話だった。マキメ氏が作家への道を一歩踏み出す前日に倒れた厳格だった祖父。厳格だったはずの祖父が少しずつ柔和になっていく不思議な悲しさ、そして荼毘にふされた祖父の周りを舞う花弁の美しさ。マキメ氏はこんな繊細な描写も出来るのかと驚きと共に涙が溢れた。そしてもう1つがマキメ氏の妹に拾われ家に招かれた猫「ねね」との別れ。「ねね」もまた歳を重ね弱っていく。小説のような、というと陳腐だが「ねね」との別れもドラマチックである。
マキメ氏の嗜好として分かったのはダウンタウンへの愛や、邦楽のレパートリーの多さ。そしてマキメ氏が敬愛し、雑誌『ダ・ヴィンチ』では彼専門のエッセイ連載もしている渡辺篤史氏(余談だけど『ダ・ヴィンチ』の連載は個人的にはスベってると思うけど)。本書収録のエッセイの方が篤史の素晴らしさが良く分かった。
察するにマキメ氏はまだまだ己に関する色々な逸話を隠し持っているだろう。なくても妄想話だけでマキメ氏はエッセイは書ける。それを読者に披露するタイミングを計り、独りニヤニヤしてそうなのが私の中のマキメ氏である(ちょっと怪しい)。
本書の表紙好きです。とっても似てるし、ネタバレも気にならないし(笑)