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The unseen見えない精霊 (カッパ・ノベルス―カッパ・ワン)

The unseen見えない精霊 (カッパ・ノベルス―カッパ・ワン)

インドの森の奥深く、僕の目の前の老婆は突然語り始めた。その声と言葉は、自らの不可能な死を語るカメラマン「ウィザード」のものだった。飛行船の闇の中、彼に死を与えるために来た美しい少女と、見えることしか信じない彼の戦いが始まる。彼の武器は鋭利な頭脳、巧妙な論理の罠。だが、彼の罠を次々に突き破る少女の論理と見えない精霊の力。大胆に読者に突きつけられる質問状、あなたは解けるか?


ミステリの分類には「一冊だけ作家」というジャンルがある。嘘である。けれども例えば『火蛾』古泉迦十さん、『消失!』中西智明さんなどは「一冊だけ作家」として有名である。そしてこのジャンルの作品、総じて評価が高い。


潔いミステリである。謎解きに必要な手掛かり・伏線が愚直なほどフェアに提示されている。また不可能性の演出も申し分ない。単純な謎なだけに読み進めるほど読者は混乱を深める構成になっている。 「ウィザード」の推理方法はトライ&エラーという言葉がよく似合う。自分の直感を信じて一つ一つ物事を検証し、論理を積み上げる。物語が謎と分離する事がなく最初から最後まで一気に読める。
しかし嘘を見抜く村人や催眠術など用意された、現実離れしたゲーム的要素がやや高い。だから不満もある。3人の傭兵は完全に駒扱いだし、場を司っていた少女にも、もう少し踏み込んで欲しかった。全ては謎の為、という姿勢は一長一短か。
殺人の物理的なトリックは典型的な手法。この手法が持ち出された時点で、なんとなく「見えた」物があった。そして、作中で追求されない不自然な一点によって、作中の言葉を借りれば、作者の「あえて隠している手持ちの札」が露見してしまった。具体的に言うと、(ネタバレ:反転→)シロクに催眠術で尋問した時、人の輪の順番の終点を全て「ウィザード」で止めている事。「ウィザード」の、そのまた次に誰がいるか(同じ方向での2周目)を聞かないのはとても不自然だった(←)
最も残念なのは真相が明かされる場面で、真相を小出しにしてしまった点。一発勝負の大ネタのトリックなのだから、一気に謎の核心に迫れば良いのに、真相は「僕」の思考の中でダラダラと解明されてしまった。だから、霧が晴れるみたいに、ぼんやりと、しかし着実に向こうの景色が予想できてしまい、作者が用意した絶景に驚けなかった。必ず勝てる手札だったのに、地味な賭けだったなぁ…。
飽くまでもフェアを貫いたのだろうが、石橋を叩き過ぎるというか、何度もシルクハットの中に鳩はいませんね、と確認を要求されるのには辟易とした。また、このトリックは偶然の要素が多すぎる。今回は思い込みによって助けられたが、不用意な一言でゲームは呆気なく終了してしまう危険がある。もしかしたら逆視点で、トリックを仕掛ける側からの攻防戦のほうが面白いのかも。攻撃をどうやってかわし続けたかを描いた倒叙ミステリ。折角、(ネタバレ→)「僕」がジャングルで見た「ウィザード」は実は「ウィザード」でなかった(←)というトリックは面白かったのに…。工夫次第でもっと面白くなるかも、という惜しい気持ちが残った。

見えない精霊みえないせいれい   読了日:2007年07月10日