《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

驟雨に洗われた坂道を疾走し、三途の闇に向かって崖縁を飛び越えた真新しいブルーの車体。星影もない暗夜の出来事は、翌朝の陽光に惨たらしい名残をさらす…。千葉県銚子の景勝屏風浦で非業の最期を迎えた四人は、謀殺の犠牲と断じられるにも拘らず、生前の交友関係を推し量るべくもない。当局の捜査は次第に昏迷の度を加え、徒に日を送るばかり。そして事件発生から一月、捜査本部で重大発表が行われるとの通知を受け、時には連携して真相を追っていた遺族たちが参集、報道陣が幾重にも取り巻く中でハイライトシーンを迎える。この日、母の亡骸に復讐を誓った塩月令子にもひとつの転機が訪れ、局面は更なる展開を見せることに。


「疾風に勁草を知る」という言葉があるが、苦難に遭った時にこそ、その人の本質は表れる。天藤作品や宮部みゆき作品が多くの人々から愛されるのは、彼らの小説の主人公たちが「勁草」だからだろう。奇禍に遭っても自分の芯(信)を見失わず、正しい人間であろうという意志に人としての理想像を見るのだ。
本書の主人公もまた潔癖で芯の強い女性。母一人自分一人の母子家庭で清貧に暮らしていたが、その母を突然の事故で失い天涯孤独の身となった主人公の令子。一時は母の訃報に慟哭するも、事故現場に立った時、母の無念を晴らす事を強く決意する。ミステリとしては、令子の母が遭遇した事故が本書最初にして最大の謎。令子の母を含めた計4人が乗った1台の車が崖下に転落。崖上には謀殺の証拠が残されていたが、被害者たちに生前の関係は認められず、また被害者たちが事故現場付近に赴いたのも偶然に近い。殺害の動機から捜査しても犯人は浮かび上がらない。果たして4人の被害者たちを繋ぐミッシングリンクはあるのか…? それを調査するのは警察の他、遺族たちが自ら設立した遺族会。彼らは故人の怨恨や被害者同士の関係の調査を開始する。
冒頭に併記した天藤作品と宮部作品だが、両者は主人公の造詣だけでなく、構成の巧さも似ている。本書も派手な謎の死角に消えているが、最初からもう一つの企みが巧妙に隠されている。その企みとは令子自身の物語を描く事。令子は事件を調査する中で、生前、母が語らなかった過去だけではなく、世間の厳しさや冷たさ・偏見、そして男性の本性など、社会の「疾風」に直面する。
母を失った悲しみの中、令子は支えとなる男性を必要とした。それは精神的な支えであったり、事件の究明のための協力者であったりするのだが、男性たちは令子との関係を拒絶、または若く美しい令子に破廉恥な行為を迫るためだけに接近する。本書は事件を通じて、身も心も「潔癖」な令子が現実に様々なタイプの男性に触れる、という一種の(ネタバレ?→)お見合い(←)のようなストーリーでもある。ラストには、謎と令子自身の物語という2つの決着が用意されている。
ミステリとしては、令子が復讐の相手を確定させる場面では「そうかな?」と首を傾げる部分があるし、犯人当てとしても意外な犯人ではない。それでも後半の彼女の行動には手に汗を握ったし、犯人の奇抜な行動原理は斬新で十分に楽しめた。
(ネタバレ感想→)書名が全てですね。また、自ら亡き後も令子の内なる心の声となって娘を支える母の姿なき姿は、射殺された後に幽霊となって自分の死の謎を探る有栖川有栖さんの『幽霊刑事』を連想した。ラストシーンも少し似ていて、どちらも読後に長く余韻に浸れる作品。本書では母を失った令子が、ラストで再び誰かと共に歩む人生の始まりを暗示させるラストシーンが感動的。(←)

死角に消えた殺人者しかくにきえたさつじんしゃ   読了日:2008年11月15日