《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

地方都市を牛耳る事業王吉川太平に殺人予告が届く。その陰謀を偶然耳にした青年は容疑者を追うが、逆に襲われ殺されてしまう。彼のガールフレンド三村早苗は、太平の押しかけ秘書となって真犯人追及に乗り出すが…。非情ともいえる独裁者吉川の家庭内の人間関係は複雑に絡み合い、殺人予告が引き金となったかのように惨劇が相次ぐ。二転三転する犯人像、はたしてその真相は。


物語は一人の青年の死と殺人の予告から物語は始まる。殺人の標的となったのは地方都市の金と権力をほしいままにする吉川太平(68)。殺人事件の際、最初に捜査されるのは被害者の人間関係、主に怨恨の線だが、どうやらそれは予告の場合でも同じらしい。しかし本書が一風変わっているのは殺人の標的となった人物が殺人予告に怯えるでもなく、生前ならぬ殺前から自分の過去を徹底的に洗い出し、犯人の目星を付けようとする点である。この生と死、追う者と追われる者の逆転の構造が奇妙なおかしさを誘う。事業王であり「発展家」でもあったこのジジイは碌でもない老人で、思い当たる犯人候補は数知れず、普通の感覚なら「殺されても仕方ない」人物なのだ。しかし同時にこのジジイは独力でのし上がって来た海千山千の「殺しても死にそうもない」人物なのである。
何と言っても本書最大の魅力はこのジジイだろう。彼の過去の悪行を聞くにつけ、強欲ジジイ!と非難したくはなるのだが、一方で良い意味で欲望に正直に生きて結果を残してきた人物でもある事も理解しているから簡単には死なないで欲しい、と応援もしている。中盤以降ジジイが、愛情は与えなかったが、それでもかけがえのない家族を次々に惨劇で失っていく様子には憐憫さえ感じた。読者のジジイに対する気持ちの天秤が良い方に悪い方にといつまでも揺れ続けているのが面白い。相次ぐ事件も発端としてはジジイの自業自得でありながら、欲望に逆らい切れなかった犯人たちが悪くもあり、しかしそれはやはりジジイの強欲が招いた自業自得の事件であるといういたちごっこの様相を呈している。単純な善悪の二元論だけではない、人間そのものが事件の主役とも言えよう。
ミステリとしては事件の出発点に少々の無理があるし(盗聴器越しの声が証拠になるのか等)、アノ人の背信や、ある程度の読み手には真犯人の目星が付きやすいという問題点がある。欲望が事件を誘発するという事件全体の「からくり」は面白いのだが、読者の天藤真初体験としてはお薦めしかねます。
天藤作品らしからぬ色っぽい作品で、読んだ事はないけれども「渡辺淳一かよ」と思いながら読書していました。なにせ「女としての悦びが開花する」とか「つねに灼熱した官能の陶酔こそ生き甲斐」なんて文章があるのだから。しかし真相が露見するきっかけとなる些細な出来事が、本書の作風ならではのもので感心した。
いつも作品に社会問題を織り込んでいる天藤作品だが、本書では経済成長の裏に潜む70年代の公害問題が取り上げ、静かに強い意見を述べている。

皆殺しパーティみなごろしパーティ   読了日:2008年05月17日