《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

謎の人物アスタロト智慧袋に、正義感あふれる学生グループが金城学園大学の「革命」に乗り出した。手始めに乱行の悪名高い経済学部長夫人をノックアウトし、意気揚々と第二弾の計画へ駒を進める。ところが中盤に至って局面は急転、予想もしない殺人事件が待っていた!言い逃れようのない状況に追い込まれた学生たちは、千々に翻弄されながらも犯人を捜そうとするが…。鷹見緋沙子名義で発表された作品のうち天藤真の手になる、長編『わが師はサタン』と短編「覆面レクイエム」を収録。


あらすじにある通り、本書は『鷹見緋沙子名義(3人の作家による共同ペンネーム)で発表された作品』である(ただし本書収録の作品は天藤氏の作品として確認されたモノ)。名義の違いを意識して読んだせいなのか、どことなく本来の天藤作品よりも登場人物たちがコミカルさに欠け、構成も粗雑な印象を受けた。これは名義の問題よりも作品自体の問題かもしれないが…。
本書の長編「わが師はサタン」は天藤氏の長編作品の中で唯一の学園物であるらしい。なのでこれまでの天藤作品の登場人物に輪をかけて学生特有の気ままさや明るさが描かれるのかと思いきや、現代の「ゆとり教育」なんてなんのその、30数年前の学生たちは暇で暇で考えなしだった(刊行は75年)。学生たちは余りにも暇なので興味本位でオカルトに手を出したのが事件の発端となる…。
冒頭こそ学生たちはオカルトに傾倒し、オカルトの師・アスタロトの言うがままに犯罪スレスレの悪魔的な儀式を行うが描かれるが、長編を通して描かれるのは「カリスマ性」や「リーダシップ」であった。他言出来ない後ろめたい儀式の最中で起きた本物の犯罪、それも殺人事件が発生し、窮地に陥った彼らの師は遠くの師匠よりも近くの大学講師に助けを求める。序盤の展開、徒にオカルトに手を出し師の教えを疑いもなく鵜呑みにして実践する彼らが、困ったら即座に師を替えるという展開は、学生たちの未熟な部分を見事に表現している箇所。しかし同時に主人公たちを嫌悪する箇所でもある。彼らは余りにも幼稚過ぎる(この辺も作者の狙いであろうが)。未読の方の興を削ぐかもしれないが、実は中盤以降も彼らの「わが師」は次々に代わる。この主導権の譲渡の慌ただしい様相が読者から退屈を忘れさせる。そして、最後に主導権を得るのは…。
そして本編は「性欲」の話でもある。「性欲」という言葉だと卑猥な印象を与えかねないので、換言すると「モテたい!」という無限のパワーの話である。主人公の田(でん)は「事件が解決した後には…」という恋人との約束を原動力にしている面が少なからずある。どうも鷹見緋沙子名義にはエロティックな作品が多いらしいが、実は元来、天藤作品自体にも男性が女性をモノにしようと画策する展開が多い。私が既読の作品の約半分には、その手の描写があった。学生たちのカリスマ、悪魔の公爵を名乗る師・アスタロトまでも俗物丸出しなのには笑った。
残念ながら事件の解決は、決定的な証拠を入手できず犯人の自白待ちであった。犯人の意外性にも欠けミステリとしての完成度はやや低い(犯人にとっては殺人の達成も僥倖に近い)。と、問題は多々あるのが長編を通して語られた「カリスマ性」の話は意外な決着を見せる。「若さ」が描かれている点は学園物ならではかな。

  • 「覆面レクイエム」…短編。主婦売春宿の経営をしていた組織のマダムと利用者が次々に変死する事件が発生。売春宿に取り巻く欲望の正体とは…。計略自体は練られているが、うーん、こんなに上手く事が運ぶものか、という疑問も残る。

わが師はサタンわがしはサタン   読了日:2009年01月07日