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海峡の光 (新潮文庫)

海峡の光 (新潮文庫)

廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ…。海峡に揺らめく人生の暗流。芥川賞受賞。


国語のテスト問題でこの作品の存在を知って、面白かったので1冊丸ごと読んでみた小説。過去に精神的に侮辱され、クラス全体の意思を支配された男・斉藤が、現在は刑務官と受刑者という社会的立場の違いで自分をおとしめた人間・花井修を支配する。冒頭からただならぬ緊張感がある。斉藤の奇妙な期待と不安は交互に訪れ、原因不明の苛立ちを生む。陸の孤島である刑務所でも緊迫するが、やはり主人公にとって様々な死と別れの記憶が沈む海の上が静かに、時に荒く心を乱した。主人公は花井修の心の闇、悪を信じて疑わず仮面の下の素顔を周囲に知らしめたい。それは自分の閉塞した人生に対して、かつての麒麟児・花井の人生を侮蔑し優越感を味わうためである。しかし花井の悪を露顕させようとすると同時に彼は花井の悪を畏怖しているという構図が見事。最後の章は、この為にこの小説があったのではないか、と思った。花井にかける言葉の選択はすごい。そして、その後の逆転も。花井の悪に気づいた人間が、花井の悪に囚われるというのが、やはり小説として面白い。囚人に囚われる刑務官。ザワザワしました。

海峡の光かいきょうのひかり   読了日:2001年01月19日