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私が読んだのは「名短篇ギャラリー こわいの部屋」ではございません! ブーッ!! えーッ!!

名短篇、さらにあり (ちくま文庫)

名短篇、さらにあり (ちくま文庫)

『名短篇、ここにあり』では収録しきれなかった数々の名作。人間の愚かさ、不気味さ、人情が詰った奇妙な12の世界。舟橋聖一「華燭」、永井龍男「出口入口」、林芙美子「骨」、久生十蘭「雲の小径」、十和田操「押入の中の鏡花先生」、川口松太郎「不動図」、吉屋信子「鬼火」、内田百輭(けん)「とほぼえ」、岡本かの子「家霊」、岩野泡鳴「ぼんち」など。文庫オリジナルでご堪能下さい。


『ここにあり』に続く、北村さんと宮部さんの編によるアンソロジー第二弾。
感想文を書くために読了から1年半経っての再読でしたが、ほとんどの短編で読んですぐに内容はもちろんだが、一度見た光景や感覚が思い出された。それだけ他に類を見ないほどユニークで、強い印象を残す作品だということか。全体的な感想として、今回は12編11人の作家さんの多くが1900年前後の生まれ(島崎藤村・岩野泡鳴は除く)であるから、戦前戦後の、高度成長期とは全く違う、昭和の空気が共通に感じられた。そして今回は「死」が隣り合わせにある短編が多かったように想う。前回も底抜けに明るい作品は少なかったが、今回は輪をかけて恐れや怖さを感じた。北村さん宮部さんの名に釣られた読者は目を丸くするのではないか(私だ)。忘れられない名短篇ではあるが、これだけの圧力をもつ死に彩られた作品を続けて読むと忘れたい記憶になりかねない。対談解説を読む限り北村さんの権限が大きそうだが、次は明るい作品選びを願いたい(もう発売されている)。
前回も書きましたが、お恥ずかしくも初めて読む作家さんばかりで、それが作風なのか変化球なのかが判別が付かず、選者の趣向を、そして作家さんの印象を正しく理解できずにいるのが申し訳なく思った。

  • 「華燭/舟橋聖一」…結婚式のスピーチに親友が話すことは…。全編に口惜しさが滲み出ている。が、負け犬の遠吠えの哀れさも誘う。女性を辱めているようで、恥ずかしい自分が華燭の典を台無しにする。
  • 「出口入口/永井龍男」…お通夜で常務の靴が誰かに履かれて…。犯人が一番、腹を立てやりたい放題である。それでいてその行動全てが、彼の人柄の全てを表しているから面白い。
  • 「骨/林芙美子」…良人を戦争で亡くし、病身の家族を養っていく道子は…。読者の周囲の色を変えてしまう力のある文章で、読み終えると深く息を吐き出し、力の入っていた肩に気づく。自分に身を売ることには早く慣れるが、家族の介護に疲れ果てていくのが妙に現代的でもあり説得力がある。最後の一文が強烈。
  • 「雲の小径/久生十蘭」…旅客機の中で白石は死んだ女性の事を想っていた…。解説対談で宮部さんも指摘していたけど、空が一番あの世に近いはず。多額の金銭が絡んでいたら商売だが、セラピーにも思える。
  • 「押入の中の鏡花先生/十和田操」…昔の手紙から思い出される文学のこと…。エッセイ風の作品で、作者の思考を追うような展開が面白い。作者と泉鏡花のおおらかな雰囲気が感じられた。
  • 「不動図/川口松太郎」…ある不動図のこと…。これもエッセイ風。宮部さんほど作品に感じ入れなかった。不動なのは、不評を買う絵を手放さない男の心。お後が宜しいようで。
  • 「紅梅振袖/川口松太郎」…想い人の婚礼にと振袖をあつらう職人だったが…。江戸ッ子のお話。主人公はもちろん、女性も一本筋の通った人なのが良い。だからこそ話がこじれるんだけど。
  • 「鬼火/吉屋信子」…瓦斯(ガス)の集金人が貧しい一家を訪ね…。昼も夜と変わらず暗さがしっかり描かれているから、何が起こるかわからない恐怖が剥き出しになっている。
  • 「とほぼえ/内田百輭(けん)」…立ち寄った氷屋はどこからかとほぼえが聞こえる…。視覚より聴覚で恐怖を誘う演出が上手い。「京極堂」の近くにある店っぽく感じたのは場所柄か。
  • 「家霊/岡本かの子」…店にどじょう汁をせがみに来る老人がいて…。一杯のどじょう汁、ですね。老人の前口上が哀れにも思えるが、おかしみも感じる。悪人がいないのに救われた気持ちになる。
  • 「ぼんち/岩野泡鳴」…玉突きに負けた男が豪遊させられるのだが、その道中…。気が弱く、自分の欲望のためにも、仲間のためにも水を差すわけにはいかない男が払う代償の大きさ。私は笑えなかった。強く印象に残る作品ではあるが、再読すると悲しみばかりが浮かんでくる。
  • 「ある女の生涯/島崎藤村」…田舎の医院にやってきた老女の胸の内には…。なりたくないと思っていたものに近づく恐怖、考えたくないものほど考えてしまう心の牢獄。囚われることの悪循環がつらい。人の心を描く小説で、こちら側の人間の描写をするものはなかなかないのではないか。ただ親類の側の心情も分かるからつらさが二乗される。

名短篇、さらにありめいたんぺん、さらにあり   読了日:2011年09月15日