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涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」。入学早々、ぶっ飛んだ挨拶をかましてくれた涼宮ハルヒ。そんなSF小説じゃあるまいし…と誰でも思うよな。俺も思ったよ。だけどハルヒは心の底から真剣だったんだ。それに気づいたときには俺の日常は、もうすでに超常になっていた…。第8回スニーカー大賞大賞受賞作。


基本的にライトノベルには敬遠策。理由はもう少し、自称・ミステリ読みでいたいから。
本書のジャンルは一風変わった、青春SF小説か?  巻き込まれ型の主人公(通称・キョン)がいつの間にか、その手に世界の命運を握っている、という大枠だけ眺めるといかにも「ありがち」な内容。しかし話の運び方の上手さや各登場人物の設定、小説構造の捩れが「ありがち」の既視感から読者を解放する。「日常」から「非日常」に移行しつつある世界を、主人公はロボットに搭乗したり超能力や魔法を行使したりせず、ある意味で最も普遍的で人間的な手段で取り戻す。
本書のヒロイン・涼宮ハルヒには平々凡々な毎日が憂鬱だった。彼女は「非日常」を渇望していた。そして彼女自身は無自覚だが彼女はその力を有していた。だから「非日常」は予定調和的に訪れる。…彼女以外に。よりにもよって普通を標榜する小市民的なキョンの元に…。このある意味でコント的な展開が全体に不思議な可笑しさを漂わす。知らぬは無知全能の「神」ばかりで…!?
冒頭から繰り返されるキョンの「俺は不思議なんて望んでないぞ!望んでないからなッ!」という呟きは、バラエティ番組における「押すなよ!絶対に押すなよッ!」と同義に思えてならなかった。毎日が憂鬱なのはキョンも(そして読者も)同じ。本書はこの世界をキョンと読者に理解させる手法が実に巧妙だった。宇宙人、未来人、超能力者それぞれの告白とその実証が順に行われ、頑ななキョンも納得せざるを得ない状況を作り上げる。彼らのバックに存在する組織とその行動理由が、時空間を超えてこの世界の広がりを感じさせる点がSF小説っぽかった。
…ん? ここで一閃。実はハルヒではなくキョンこそ「神」という考えも出来ないものか? 彼は内心では「非日常」を望んでいるけど、自分では世界変革の引き金を引きたくない。だから自分好みの可愛いクラスメイトを身代わりに用意して、彼女に好き放題暴れさせる(振り回される振りをして)。自分にしか口をきかない彼女の座席は自分の後ろに予約済。更に彼女の願いという名目で現れる上級生の美人ドジっ子と無口な眼鏡っ子(ついでに古泉)。やたらスキンシップが多くて、皆それぞれ自分に好意を抱いているらしい…。それはまさに夢の世界!
おぉ、本書の余りにもキョン本位の展開もこう考えれば合点がいくね(苦笑) 勿論、辻褄が合わない箇所も出てくるけど。ただ世界崩壊の危機の原因となったハルヒの感情は憂鬱というより(→)嫉妬(←)だし…。色々と神様たちのご都合主義が感知できますね(ハルヒ・作者・キョンに自分を重ねる読者の三者三様の)。
斯く言う私もキョンが一番好き。上述の素直になれない強がりや、結構なシスコンっぷり、結構なヲタク趣向など文章の奥から読み取れる彼の心理が面白かった。読者の彼へのニヤニヤした接し方(楽しみ方)は古泉に近いのかな?
個人的には長門有希がいつ「あなたは死なないわ。私が守るもの」と言い出すのかドキドキしていた(笑) 無口キャラはどうしても偉大な先行例が頭を過ぎります。

涼宮ハルヒの憂鬱すずみやはるひのゆううつ   読了日:2010年04月04日