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笑酔亭梅寿謎解噺 1 ハナシがちがう! (集英社文庫)

笑酔亭梅寿謎解噺 1 ハナシがちがう! (集英社文庫)

上方落語の大看板・笑酔亭梅寿のもとに無理やり弟子入りさせられた、金髪トサカ頭の不良少年・竜二。大酒呑みの師匠にどつかれ、けなされて、逃げ出すことばかりを考えていたが、古典落語の魅力にとりつかれてしまったのが運のツキ。ひたすらガマンの噺家修業の日々に、なぜか続発する怪事件!個性豊かな芸人たちの楽屋裏をまじえて描く笑いと涙の本格落語ミステリ。


面白い!ミステリとしてだけでも意表をつく展開で面白いのだが、本の帯に書いてある通り竜二のビルドゥングスロマンとして読むのが正しいと思う。途中からミステリ要素を排除して、物語の展開だけが気になってしまっていた(笑)そのぐらい人物は魅力的で、落語に関わる人の苦悩がしっかりと描かれている。竜二が悩む、古典落語の噺をどう現代の観客に楽しませるのかや、「笑い」全般の難しさについて竜二と共に知れる。乱暴な言葉遣いながら弟子を思う梅寿には、いつもグッときてしまう。この本は大阪弁の温かみや、味や粋といった昔の格好良さをにじませている。読む人が上方落語に精通していたら、もっと楽しいのかもしれない。私は「浅卑新聞」ぐらいしかパロディ(?)が分からなかったけれど。
他に落語を扱ったミステリだと、北村薫さんの「円紫さんと私シリーズ」や、大倉崇裕さんの「季刊落語シリーズ」、小説だと佐藤多佳子さんの『しゃべれどもしゃべれども』などがある。どれも面白いので是非一読を。そして私が何より似ていると思ったのがTVドラマの「タイガー&ドラゴン」。 設定や話の一部が似ている。落語の噺と現実の話を合わせる所は、瓜二つ。この2作が同時期に書かれているのが妙に因縁めいていて興味深い。この時に落語ブームを起こそうとした仕掛け人でもいるんだろうか…。竜二のこの後が書かれた続編が読みたい。出ないかなー(後日談:出ました)。

  • 「たちきり線香」…元担任教師に連れられ上方落語の大物に弟子入りする事になった竜二。しかし、その落語家は悪い酒癖と悪い噂が…。主要登場人物が次々と登場。推理はオマケみたいなものか。竜二の才能は最初から描かれている。
  • 「らくだ」…破天荒な行動と毒舌で気のアメリカ人落語家が、楽屋の隣室で死んでいた。しかし容疑者全員、犯行は不可能で…!?落語とミステリを非常に上手く絡ませた短編。ブラッドのハチャメチャな言動の数々も納得の解決。
  • 「時うどん」…実力はありながらもテレビ出演をしないために、いまいち人気の出ない兄弟漫才師。そこで会社は一計を案じるのだが…。このトリックは成立するかと言えば非常に微妙。梅春の苦悩と過去が語られてる。この続きは…。
  • 「平林」…いよいよ初高座を迎えた竜二。噺は「平林」。緊張の中、彼は高座に上がるが、その舞台に闖入者が上がってきて…。これも噺とトリックが非常に上手く配置されている。梅寿はズルイ。泣かせる。竜二の芸名は予想がつくけど。
  • 「住吉駕籠」…新作落語で有名な笑酔亭梅毒。しかし彼は元・病院院長夫人への悪行でも有名だった。そして遂に未亡人が刺されてしまう…。見える光景の一転の仕方がすごい。そして梅春さんの悩みの原因の解明と解決が良かった。竜二は古典に見切りをつけ新作に挑戦するが、最後の2行で思わぬ展開があった…。
  • 「子は鎹」…行くあての無い竜二は昔の友達の所を点々とする。しかし彼の居ぬ間に梅寿の孫テルコが誘拐された…!?竜二の話が気になってミステリは完全におまけ。竜二は落語の意義を見出す。梅寿はまたまたズルイ。泣かせます。
  • 「千両みかん」…映像企画会社が主催するコンテストに出場する事になった竜二。しかし、その会社は「ある物」に悩んでいた…。これも噺と話のリンクが面白い。そして序盤と終盤のリンクも見事。この後、竜二はどう成長するのー?

ハナシがちがう!  笑酔亭梅寿謎解噺ハナシがちがう! しょうふくていばいじゅなぞときばなし   読了日:2005年09月10日