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青春の思い出との10年ぶりの再会。一度で二度美味しい浪人生小説。

風に桜の舞う道で (新潮文庫)

風に桜の舞う道で (新潮文庫)

そう、そろそろ桜が満開という頃だった。大学受験に失敗した僕は、予備校の特待生試験にはなぜか合格し、桜花寮に住むことになった。入寮式の日、これから共に勉強漬けの一年を過ごす(はずの)リュータやヨージと出会った。そして十年後、「リュータが死んだ」という噂を聞いた僕は…。青春の背中を追いかけていた浪人時代と現実を懸命に生きる今を重ねて描く、永遠の友情小説。


私は浪人生という存在が中心に据えられている本を初めて読みました。共通の目的に向かって汗を流す体育会系とは違う、自分のために学びながらも、苦境を分かち合い自然と生まれる受験生の周囲との不思議な連帯感を懐かしく思った。

本書の構成は小説内のリアルタイムである2000年と、その10年前の1990年との同じ月の出来事を交互に並べるという手法が取られている(2000年4月→1990年4月→2000年5月…)。ちょうどこの10年は社会的には「失われたの10年」とか呼ばれる10年とほぼ時を同じくしますが、彼らにとっても交際が失われた10年でもあった。それは日本が変わった(主に経済状況)10年であり、そこから脱しようともがいた10年であるはあります(空白は20年以上にもなるのだが…)。その前進だか後進だか分からない日本の変化が小説で描き込まれていて、時の流れを感じさせられました。

このタイムラグが、とても効果的に物語に作用していた。足場を失った彼らの不安や、勉強付けの毎日の葛藤やストレス、そのどれもを10年という月日は甘く包んでいるように思えるのだ。それは彼らの人としての成長や器の広がりと同じかもしれない。この10年での社会背景の違いや、2つの時間の挿話のタイミングがなんとも上手い。10年前の出来事の結末や感想を大人として成長した現代の彼らに語らせる、という手法は、それぞれのエピソードを補完し合い、その魅力は二乗倍になっている。私は竹内真さんの作品の優しい雰囲気が好きだけれど、作家としての手腕の高さにも惚れている。エピソード1つ1つも、よりキャラクタの理解を深める話になっていて、どの人物にもしっかりとした印象を残す。特に勉強3分類は思わず笑って、後に大いに納得。確かに分類するとそうかもしれない。これはネタとして覚えておきたいな。

風に桜の舞う道でかぜにさくらのまうみちで   読了日:2004年05月15日