- 作者: 竹内真
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/05/25
- メディア: 単行本
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銀色に輝く翼を手に入れた少年たちは、明日へ続く道を、全速力で駆け抜ける…。幼い昇平の乗る自転車がスピードを出しすぎてとびこんだのは、草太の家の庭だった。ふたりは、その日、生涯の親友と出会う…。海までペダルをこいだ。弱小自転車部でレースに挑んだ。そして、東京発日本海行きのラリーを創った。もちろん素敵な恋もした。少年から大人になるまで、ふたつの魂の長距離走。爽快無類の成長小説。
やっぱり竹内さん好きだ、と竹内愛を再確認した一冊。特に竹内作品は最終章がいつも素晴らしい。一文一文に登場人物たちの「これまで」の様々な思いが去来し、彼らの「これから」の道が明るいものでありますようにと純粋に心底願える。そして素敵な小説をありがとう、と作者に感謝の想いが湧き上がる。竹内真はいつも小説を読む喜びを与えてくれる作家だ。だから大好きだ!
題名通り自転車をテーマにした小説。4歳の時に自転車を発端にして出会った男の子2人の、以後20数年にも亘る自転車で駆け抜けた人生の物語。本書は『カレーライフ』ならぬ「バイシクルライフ」。などと大袈裟に書くと自転車に心血を注ぐ熱血体育会系小説かと思われるかもしれないが、本書は自転車と人生の理想的な伴走を描いた自転車愛に溢れる成長小説である。胸の高鳴る冒険も心えぐられる失恋も挑戦も挫折も達成も、愛する人・かけがえのない仲間の出会いと別れも、その全てが自転車と共にあった。NO BICYCLE,NO LIFE!
幼き日に出会った昇平と草太。陽気だが気分屋の昇平と、寡黙に目標へ突き進む草太がそれぞれに走る道とは…。淡い恋心や突発的な家出、多くの人を巻き込む事になるイベントまで、どのエピソードも詳細に描かれ、千葉のある町にはこんな少年たちが本当に実在したではないかと思うほど立体的な彼らたち。彼らの一歩一歩の成長を読者は時に応援し時に叱咤しながら伴走する。
彼らの中の自転車の存在も成長と共に移り変わっていく。最初はスリルを与えてくれる物。そして秘密を共有し、目標を与えてくれる物。序盤の彼らと自転車の関係は読者の誰しもが共感できるはず。一度も足を着きたくない坂道、知らない道を走る緊張と興奮、年齢と共に広がる行動範囲、彼らの冒険を読みながら思わず自身の自転車の思い出を想起するだろう。そしてその時には既に本書に心を奪われている。やがて成長した彼らは競技として自転車に関わる。ただし決してエリート競技者としてではない。好きな事で脱落するのは本当に辛い事だ。しかし彼の不屈の挑戦の原動力は目標を達成出来たという過去の経験だろう。そして大人になった彼らの自転車との付き合いは趣味や仕事へとその領域を移す。ここで読者は再び気付かされる。大人になっても健やかな自転車との交流が出来るのか、と。そして誰もが走り出したくなる。そんな高揚感をこの小説は与えてくれる。
単純に言うと竹内作品には愛がある。登場人物への愛、テーマへの愛、小説への愛。本書でも著者は自転車が好きなんだろうなぁ、というのがヒシヒシと感じられる。そこがまた内容と相俟って幸福な読書の一因にある。
また彼らの成長と共に時代の変遷が背景に描かれている点も見逃せない。千葉から東京へのアクセスはアクアラインの完成で格段に向上したし、個人間のアクセスも携帯電話の普及で簡単になった。ただ、伸男の恋の章はちょっと展開が強引だと思った。違う形態の自転車の登場のために用意された人物と思えなくもないのだ(良い話なのだが)。あと奏の成功もやや無理があるような…。
著者サイトによると本書の続編が用意されているらしい! これは楽しみ。