- 作者: 柴田よしき
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2000/10/21
- メディア: 文庫
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オレの同居人、作家の桜川ひとみは、山奥の「柚木野山荘」で開かれる結婚式に招待された。そして、無理矢理連れてこられたオレ(しかも一服盛られて!)。山荘で待っていたのは幼なじみのサスケと美猫トマシーナとの出会い、しかしそれだけではなかった。オレは次第に怪しげな雰囲気に飲み込まれていく。新郎・白石へ脅迫状が舞い込み、土砂崩れで山荘は孤立、そしてとうとう最初の犠牲者が…。毒死、転落死、相次ぐ死は事故か殺人か? 猫探偵正太郎が活躍するシリーズ第一弾。本格ミステリー。
猫の正太郎が探偵役を務める異色ミステリ。猫探偵といえば三毛猫が有名だろうが、アチラは雌猫でコチラは雄猫。ジャンルとしてはクローズドサークルもの。もっといえばタイトル通り、「ゆきの(雪の)山荘」もの。ただし吹雪ではなく、土砂崩れによる孤立。そんな、ある閉ざされた山荘で、事件は起こる…。
本書の最大の特徴はやはり正太郎による猫視点・猫思考だろう。この世界では猫や犬は人間並みに思考して生活し、動物同士は会話出来るようだ。そして彼らの特徴である嗅覚の鋭さや敏捷性、人間の動物への無防備さなど人間にはない特徴が探偵による推理の材料として使われている。反対に動物探偵には出来ない欠点としては文字が読めなかったり、人間の癖や(暗い)思考を完全にトレース出来ない事が挙げられる。よって事件の背景は鮮明には見えてこないのだが、そこは人間の探偵役によって人間側の一応の決着が付けられている。
その人間たちもユニークでガサツな正太郎の同居人や、それに振り回される編集者・作家仲間など個性の強い面々が集まって賑やかである。しかし、その雰囲気も一変、毒物により次々に人は倒れ、そして命を落とす。底抜けに明るい雰囲気から弱りながら死んでいく様子が対照的で、その落差に驚いた。物理的にも精神的にも閉塞していく人間たち。果たして事件の真相は…。
この真相は賛否両論だろう。私としては「うーん、そっちの方向にいったか…」という感じ。猫探偵という異色の作風にはこういう結末もありだとは思うのだけれど、やはり、それはやり過ぎじゃないの?という疑問も消せない。
そもそも真相としては事件は単純なものではなく、個々の事情が偶然にも重なり合った結果なんだろうけど、毒殺も脅迫状の真相もなかなかに非現実的だ。このアイデアは「あとがき」によると実話から得た着想だろうけど、さすがにちょっと納得できない。もちろん、伏線(防波堤(?))としての正太郎たち動物は人間に近い思考と行動が出来るっていう前提なのだろうけれど。私の心が狭いのか…?
一番の魅力はやはり正太郎。猫の少女に対しては飽くまで紳士的な態度を通すのが偉い。ロリコンにあらず。そして変人の同居人と正太郎の捩れた愛情も良かった。正太郎が嫌いではないのなら、同居人も悪い奴じゃないんじゃない、と思ってしまう。が、飼い猫に睡眠薬を盛るような人は良い奴じゃない…。