- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2001/04/18
- メディア: 文庫
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著者のデビュー長編『パーフェクト・ブルー』で登場したジャーマン・シェパードの老犬マサと蓮見探偵事務所の面々、それに好青年、諸岡進也……お馴染みの人たちが遭遇する五つの事件。本書はそこに登場する様々な人間たちの実像に真っ向から立ち向かおうとする彼らの活躍が、マサの目を通して語られる、ほろ苦くも心優しい宮部ワールド。
著作数の割にシリーズ物の少ない宮部さんの数少ないシリーズ。前作『パーフェクト・ブルー』で、この登場人物たちをとても好きになった私にとって嬉しい続編。今回は短篇集です。前回は主に加代ちゃんに付いていただけだったマサが単独行動をし、様々な感情を覗かせます。特に1話目の怒り、4話目の自覚しない寂しさが微笑ましかった。残念だったのは諸岡進也が実質一話しか出なかった事。彼にはもっと動いて物語をかき回して欲しかった(笑) もう一冊続編出ませんかねー。
宮部さんの作品は人の脆い・醜い部分が犯罪の発端となっていて、やりきれない気持ちになる反面、それに立ち向かう・乗り越える人の強い・優しい部分も書かれているので前向きに読み終えられる。人の情を書くのが上手い人だと思う。
- 「心とろかすような」…早朝ラブホテルから出てくる進也と糸ちゃん。彼らは誰かに殴られ連れてこられたというが。言い訳か事実か、加代ちゃんが調べる…。インパクトのある始まりである。そして途中の糸ちゃんのセリフにドキッとさせられる。事件は情を利用した嫌なものである。それにしても最後の嘘は信じるか…?
- 「てのひらの森の下で」…早朝に散歩していた加代ちゃんとマサは死んでいる男性を発見する。が、目をはなした隙に死体が動き、マサが…!?犯人分かっちゃった作品。しかし、使われている小道具の上手さとラストが宮部さんらしくていい。
- 「白い騎士は歌う」…相談者の女性は、殺人事件で指名手配されている弟の行方ではなく、弟が作った借金の理由を知りたいという…。ミステリらしい一編。探偵の地道な調査と意外な真相が結びつく。あの新聞記者は加代ちゃんに近づくと思ったのだが…。あれが全ての救いになるとは思わないが、白い騎士は心強い。
- 「マサ、留守番する」…加代ちゃんたちが旅行に行き、一匹留守番をするマサ。翌朝、誰もいない事務所に何者かがある物を置いていく…。マサが活躍する話。多くの動物が出てきて会話するちょっとメルヘンな話である。ただ加代ちゃんとの連携が好きな私は残念。そして事件はちっともメルヘンじゃない。身勝手な話だ。愛玩動物は現在では動物愛護法が制定され器物扱いされなくなっている。
- 「マサの弁明」…蓮見探偵事務所に新人推理小説家「宮部みゆき」からの深夜に家の前を通る足音の謎を解明して欲しいとの依頼が…。宮部さんがこの作品に登場するのは楽しいが、真相を聞くとあまり楽しめない。どうなんだろう、これは…。