- 作者: 戸松淳矩
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/07/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (7件) を見る
背ばっかりヒョロヒョロ高いわりに、馬みたいにでっかい尻をしてて、もうこれ以上ないってくらいの不器用な転校生の鳴門が、なんと前の高校でエースとして甲子園に出ていたというから、さあ大変だ。このところさっぱりのわが野球部に、今度こその気運が高まったとき…。好事魔多しとはまさにこのことか!? 相次ぐ怪事件に、オレたち迷探偵トリオは? ますます快調な第二弾。
シリーズ第2弾。…なのだけれど前回と探偵役も違うし、自称『迷探偵トリオ』の好珍プレーを描く作品なのかと思ってたのに、書き手である主人公以外の2人は今回、蚊帳の外で完全な脇役に落ちぶれていたのには仰天。近所のオジさんである辰さんや牛乳屋の方が余程、存在感があったよ…。3人組は3人組でも本書では、探偵役の住職と下町のプリンセスと主人公の3人が名無しの探偵組織を立ち上げる話だった。これはちょっと約束が違うぞ、と思ったけれど、もしかしたら表紙からミスリードさせるトリックなのかもしれない。
今回も「江戸っ子ミステリ」全開。転校生姉弟が一人は学園のヒロイン、一人が野球部のエース候補となって学園生活が賑やかになったかと思いきや、野球部コーチの乗ったバスは暴走し、一命を取り留めたコーチは更に毒殺未遂に脅迫状まで受け取る。更にはその中でヒロインが爆弾騒動に巻き込まれるといった事件の大盤振る舞い。更には野球部の甲子園出場も夢ではなくなるときて、町中はお祭り騒ぎになる。まぁ全体の感想は前回と同じ、スタートダッシュが見所。
本書では最後まで読むとある人物の言動に含みがあった事が判明する。これが実は読者には伏線として、主人公たちにはヒントとして投げられる言葉は後々重要になっている。…のだが、だからといって全部を読み返す程の優れた作品でもないし、読者には伏線というより、後半の唐突な展開へのせめてもの前置き・言い訳にも思える。今回は真相披露で事件の背景が急に語られ、一連の事件の犯人も盲点ではあるし一応の筋は通るが、読者はカタルシスを感じにくい真相となっている。事件の動機の解説は説得力に乏しくミステリとして評価はし辛い。またその動機も非常に嫌なものであった。犯人となった人のそれまでの言動などと一致しないのも気になる。本書では事件が作為的というよりも犯人の過去の創作が作者の作為だと感じられるものだった。また犯人が自分の失態から逃れるため犯行に駆り立てているのも「江戸っ子ミステリ」らしくなくて残念である。真相を理解した後、ある人物の言葉によって、事件を笑い飛ばして物語を陽気に締めているが、彼らの今後を考えると一番しこりの残る問題ではないかと思われる。私が真相に気がついたら、人情よりも法律持ち出して社会的に制裁を受けてもらいたいけど。なので今回も最後の10ページの勢いに任せた展開が気になった。
下町の独特なキャラクタ造詣に歯切れの良い文章、インパクトは大きいがコミカルに連続する事件たちに加えて、これでミステリとして体裁が整っていればもう一段高い評価が時代を超えて得られたのにな、と思わざるを得ない。当世の中学生ぐらいにミステリの入門書として薦めるには、少し完成度が低く胸を張っては薦められない。昭和のラノベミステリだねぇ、と切り捨てられそう…。惜しいっ!!