- 作者: 佐藤多佳子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/05/30
- メディア: 文庫
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俺は今昔亭三つ葉。当年二十六。三度のメシより落語が好きで、噺家になったはいいが、未だ前座よりちょい上の二ツ目。自慢じゃないが、頑固でめっぽう気が短い。女の気持ちにゃとんと疎い。そんな俺に、落語指南を頼む物好きが現われた。だけどこれが困りもんばっかりで…胸がキュンとして、思わずグッときて、むくむく元気が出てくる。読み終えたらあなたもいい人になってる率100%。
面白かった。この面白さは、やっぱりキャラクタがしっかりしているからだろう。他の人との代替のきかない人たち。タイトルではありませんが会話に温度があります。誰が喋っているのか会話で分かる。それが素晴らしい。意思を伝える手段である「会話」を失った面々。けれども、一歩一歩近づいていく距離。その過程がとってもリアルでコミカル。何気ない所にその距離感が出ていて上手い。
多分、普通の小説ならば全員が喋る自信を取り戻し、やりたい事をやる、という結末なのだろうけど、この小説は誰も明るい将来を約束されない。皆、努力の途中なのである。三つ葉さんにしても真打ちになるには、まだまだ苦労をするだろうし、村林はまだまだクラスで爪弾きに遭うのかもしれない。でも、この小説は素晴らしい。これからの物語ではなくこれまでの過程の物語である。最初は短気であるのが特徴の三つ葉さんの良い所が露見していくのが良い。彼がほんわかしてる郁子さんに惹かれたのは自分と同じモノを持っていると感じたからではないだろうか。彼のお節介なほどの人の良さ・融通のきかなさは、筋の通った生き方をしたからだろう。本当の意味での育ちの良さを感じさせて最後には好きになってます。
他にはやっぱり村林くんだろう。彼の世界で戦った彼の勇気は感服。落語の段はとっても興奮しました。気になったのは村林の喧嘩の相手・宮田くんの描写。三つ葉さんの周りばっかりいい人で、彼の将来が暗いものである暗示はなんだか不公平。どんな人にもいい所があるっていうのがよかったかな…。