《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

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桜姫 (角川文庫)

桜姫 (角川文庫)

十五年前、大物歌舞伎役者の跡取りとして将来を嘱望されていた少年・市村音也が幼くして死亡した。それ以後、音也の妹・笙子は、自らの手で兄を絞め殺す生々しい夢に苦しめられるようになる。自分が兄を殺してしまったのではないだろうか。誰にも言えない疑惑を抱えて成長した笙子の前に、かつて音也の親友だったという若手歌舞伎役者・市川銀京が現れた。音也の死の真相を探る銀京に、笙子は激しい恋心を抱くようになるが―。梨園を舞台に繰り広げられる痛切な愛憎劇。ミステリ界の最注目株・近藤史恵が満を持して放つ、書き下ろし歌舞伎ミステリ。


前作に続いて、またもや2回読ませる作品である。作中の数々の描写・周囲の言動や反応などの全ての理由が、真相を知った後、分かる。そして今回は今まで以上に重い結末である。あの人が罪を背負ってしまうのは辛い。
近藤さんの作品は歌舞伎を中心に置きながらも、距離を縮めすぎないのが心地よい。作品や歌舞伎についての説明が多すぎる事も少なすぎる事もなく、歌舞伎を知らない人にも簡単に読めるように工夫されている。そして何より歌舞伎を知らない私に、菊花師匠の、銀京の挙措の美しさを想像させる。静かな美しいものを表現するのは難しいだろう。今回、悪役・敵役のように登場した銀京ですが、読み進めていく内に強い意志を持ち、貫き通そうとする彼が分かるような気がした。
もう一つ上手いと思うのは、トリックと歌舞伎作品の関連のさせ方。伏線らしい伏線がなく、多少、突飛に思える結末に、無理なく読者を導く歌舞伎との関連が上手い。古典をモチーフにした作品を書くと、登場人物を作品に重ね合わせると、ある程度の真相が見えてしまう事があるが、この作品にはない。だからといって古典が全て無関係なのではなく、登場人物の行動や心情と上手くリンクして、深い理解に繋がる。特に今回は真相との関連が、とても上手いと思う。最後に気づいた事を。
※本書と前作『散りしかたみに』の真相にも言及しています。ご注意を。
(ネタバレ:反転→)作者の近藤さんが意図してるかは不明だけれど、私がこの作品を前作「散りしかたみに」と続けて再読して感じたのは、本書と「散りし〜」はトリックの構造が逆になっているということ。どういう事かと言うと「散りし〜」では1人だと思っていたの人間が2人だったというのが真相で、本書では2人だと思っていた人間が実は1人だった。この構造が見事に逆なのである。私はこの二つの真相の対比が実に美しいと思った。歌舞伎と物語を重ねる事によって物語が美しく、また悲しくなるように、二つの作品を合わせると相乗効果で思いがまた増す。とか書いて、実はとんでもなく見当外れだったりして…(笑)(←ここまで)

桜姫さくらひめ   読了日:2002年09月11日