- 作者: 近藤史恵
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2007/04
- メディア: 文庫
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大阪の南方署、刑事課に配属の會川圭司は最初の現場でどじを踏んでしまった。犯行現場のバスルームで鑑識がみつけた髪の毛を流してしまったのだ。そんなヘタレな刑事が新しく組んだ相棒が黒岩という女刑事。こちらもお荷物扱いのようだが…。
まだ結婚6ヶ月の新婚夫婦の夫が他殺体で発見された。現場に多くの証拠を残した妻は現在、行方不明。共に再婚同士の夫婦の間に一体何が…。
近藤史恵さんの新シリーズで初の警察物。と言っても(主に)男性作家の書く息の詰まる組織としての警察物とは違い、新米刑事と上司の女性刑事コンビが(手が足りず止むを得ず)単独行動を取る事件を追うという流れになっている。このページ数で物語の中核を担う事件に隠されたテーマと、加害者と被害者の心理を端的に描くのはさすがの筆力。しかし、テーマ選定が「整体師シリーズ」の横流しのように感じられ、新シリーズの目新しさや作風の幅を感じられなかったのは残念。だが、公的な捜査において心優しい刑事たちの真実に対峙していく苦悩や痛みは作品に程好い苦味を効かせていた。
前記の「整体師シリーズ」をはじめ近藤作品は、現代女性が抱える社会問題をミステリという形式を取って掘り下げて紹介する。また同時に万が一の場合の対処法を教えてくれる学べるミステリでもある(今回その先にまた善意の不幸があるのだが…)。本書は括りとしては同じでも直接・間接の2種の問題を用意するのが周到だ。夫婦や恋人など心許せる関係性であるからこそ起こる問題。その関係にならないと分からない人の二面性。心を許したからこそ、許されない悪循環かぁ…。
主人公たちは性格的にはやや紋切り型だ。正義感の強さから刑事になった圭司(近藤作品の男性主人公は正統派過ぎる)、終わってみれば「NOT 変人」の黒岩(男社会の刑事社会ではまだまだ異端って事なのか?)、「THE 町のお巡りさん」の同居する兄・宗司(同居する兄弟という設定は北村薫さんの「覆面作家シリーズ」の岡部兄弟(あちらは双子で刑事と編集者)を連想した。そして會川兄弟を手玉に取る謎の女性・美紀ちゃん(正体を知った時に笑ってしまった)。しかし彼らは少し「普通」とは少し違う生活を営んでいた。普通に見える夫婦や男女に隠された問題と、少し普通とは違う彼らという対比構造も上手く機能していた。
ミステリとしては少し不自然な目立ち方をしていた登場人物が居たのが残念。だが真相で夫婦間だけでない第3種の問題にも切り込んだその構成は見事。私は勝手に冒頭の會川がドジした事件と夫婦の事件がリンクするのかと邪推&期待したのだが、どうも黒岩とコンビを組ませ、2人に単独行動の自由を与える為だけだった。そうなると事件が複雑化してしまいテーマがぼやけてしまうが、ミステリとしては全く無駄のない展開になったのに…、と欲深く思った。