- 作者: 北森鴻
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2004/10/01
- メディア: 文庫
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人の不幸のみを予言する謎の占い書「フォーチュンブック」。偶然入手した七人の男女は、運命の黒い糸に絡めとられたかのように、それぞれの犯罪に手を染める。錯綜する物語は、やがて驚愕の最終話へ。連作ミステリーの到達点を示す傑作長篇。
著者お得意の連作短編集。今回はある魔書に魅入られた人々の数奇な運命を縦軸に、戦後の昭和事件史を横軸に物語はある真実を編み上げていく。
実に「アクロバティック」な作品。「アクロバティック」という言葉の中には大味だ、という皮肉も多少含むが、その大胆さが各短編の裏側にある大事件を一線上に並べたとも評価できる。魔書「フォーチュンブック」と昭和の大事件との関連を作中の時間を前後させながら描き、徐々に読者を残された「ある事件」に巧みに誘導していく。そして最後にその事件に対して大胆な仮説を成立させるというクライマックスへの運びは見事。2つの昭和史に残る大事件を特徴が類似した犯罪として捉えた視点が秀逸。未解決事件だからこそ仮説はその域を超える。また全編を通してみると犯罪を犯罪で塗り潰そうとする痕跡が見え隠れする。
登場人物たちが手にした魔書が凶兆しか予言しないのと同じく、本書も日陰を歩かざるを得ない彼らの人生を紡ぐので、読者も暗澹とした気持ちになること必至なので覚悟が必要。また大事件の背景にある正体の掴めない悪意にも背筋を凍らせる事になる。過去だからか勝手に白黒映像になった世界がまた怖い。
- 「プロローグ」…舞台は1967年、松本。書店で魔書に誘われた者たち。凶兆。
- 「原点」…1969年。大学で学生運動が盛り上がる中、仲間の兄貴的存在の男性が首を吊って死んだ…。短編内で真相は明らかになるが、真相がまた新たな謎を呼ぶ。題名は「原点」だが、実は本当の「原点」は過去にあるらしい。
- 「それからの貌」…1982年。新聞記者の檻口は高校時代の恋人の死と偽硬貨事件の関連を知る…。女性の死は「特殊な動機」に分類されるだろうか。本編もモヤモヤする解決で、事件の背景にはまだ巨悪が隠れていそうな気配。
- 「羽化の季節」…1987年。昭和の終わり。現存するはずのない絵の存在が老人の告白を促す…。これぞ著者お得意の美術ミステリ。「冬狐堂」シリーズでなら使用しないぐらいの軽めのトリック。ラストは思わぬ場所でどんでん返し。
- 「封印迷宮」…1984年。わずか2年で身を落とした元新聞記者の檻口は謎の人物「サクラダ」と犯罪を計画する…。欲望の失せた男の原動力となる願いとは? 脅迫犯罪を熟知する男の正体は? 全てを繋ぐ一本の線が見えてきた感じ。
- 「さよなら神様」…1975年(回想は66年〜68年)。横須賀線爆破事件の当日、ある女性被害者の一日の行動は…。本編は事件の真相よりも、その後の一要素が読了後にジワジワと疑念に変わる。そうか、昭和には「あの大事件」があった!!
- 「六人の謡える乙子」…1974年。彫刻家の師匠の墓の下から出てきた六体の女性像に隠された役割とは…。前編と同じく主人公が気付いた真実は本人の中に仕舞われる。師匠がアリバイを工作してまで隠したかった犯罪は…。
- 「共犯マジック」…1985年。最終話。全ての短編に共通していたのは「フォーチュンブック」だけではなかった…!? 魔書を巡る偶然が過ぎると思う一方、ボウリングでスペアを何連続も続けて出したようなカタルシスがあった(そんな経験無いけど…)。決して救われないけれど憑物は落ちた感じのするラスト。