- 作者: 北森鴻
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/08/12
- メディア: 文庫
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タクシー強盗と、港の火事、そしてスーパーの警報騒ぎ、同時に起こった事件の意外な関連とは……。中洲の屋台でバーを営む鴨志田鉄樹(かもしだてつき)と、結婚相談所の調査員・根岸球太(ねぎしきゆうた)。腐れ縁の通称「鴨ネギコンビ」が、どういうわけか、物騒な事件に関わっていく。博多を舞台に大暴れ! ハードボイルド・ストーリー。
連作短編集が得意な北森さんだが、本書は純粋なミステリ短編集。ミステリとしては謎解きパズルのピースが大きく、全ての出来事が一つの事件に収斂するので事件全体の構造は分かりやすい。そんな中でも本書は各短編の事件関係者の心模様が忘れがたい余韻を残す。ただし、それは重く苦しい余韻。起きてしまった事件に対して真相を見抜くのが遅い、と探偵役の屋台のオヤジ・テッキが事件解決後にも自分の無力を痛感するように、読者も事件の当事者や巻き込まれた者の人生の閉塞感を読後に引き摺ってしまうだろう。そのハードボイルドな視点こそが北森作品の魅力である事は百も承知だが、無鉄砲で底抜けに明るい凸凹コンビの活躍を勝手に期待していた私には、胃がもたれるような事件の連続だった。多くの人が不幸になる話なので、精神状態の良い時にお読み下さい。
博多ばり怖ッ!と博多を誤解しそうな短編集です。小説に登場する街に行ってみたいなぁ、と思う事の多い私ですが博多は遠慮したいと思っています。地元の人は本書の博多の扱いに怒ったりしてないかな、と心配。
別シリーズの「香菜里屋」では店のビールが売りだったが、本書のテッキの屋台では事件毎に登場人物の前にはそれぞれ違った種類のカクテルが差し出される。
- 「セヴンス・ヘヴン」…結婚相談所の調査員であるキュータが訪問した家の中には新婚夫婦の死体が…!? 結婚相談所という舞台が事件の入口と出口に上手く使われている。不幸を呪い悪事に走り、露見を恐れ悪事を重ねる悲しい人生。直情型暴走思考のキュータと冷静な沈思黙考のテッキの役割分担が明確に。
- 「地下街のロビンソン」…伝説の博多の「歌姫」から破格で依頼されたのは女性の人探しなのだが…。うぅ、早くも登場人物の周辺が不幸に。世間が狭い。またも悪事の底なし地獄の話です。キュータの能天気さが本書で唯一の救いかも。テッキの思考は最悪の事態を無意識的に回避しているのかな。優しさ?
- 「夏のおでかけ」…夏になると決まって店を閉め行方不明になるテッキのおでかけ先とは…? これは良い話かな?と思ったら案の定の展開。もう胃が重たいッス。今回は彼に痛手が。何でしょう探偵の業なのか、類は友を呼んでいるのか、事件が彼らを呼んでいる。でも、この目撃証言は偶然で遠過ぎないか?
- 「ハードラック・ナイト」…博多中が揺れる夜、高校時代の同級生がテッキの屋台に現れる。その夜、一つの死体が…。もう止めて。出てくる登場人物、皆不幸になる話なんて…。殺人の動機が独特。あのバカ男、自分の軽はずみな発言が殺人にまで発展するなんて思ってないんだろうなぁ。全編、遣る瀬無いよー。
- 「親不孝通りディテクティブ」…表題作。テッキの店で、あるカクテルが永久欠番の理由とは…。2年前の物語。罪から逃れるのではなく、罪を被る謎。結果的に良い話とは言い難いが、彼の態度・思いやりには頭が下がる。テッキは本当に優秀なのだが、後手に回らなければならない探偵の業に苦しむ。
- 「センチメンタル・ドライバー」…結婚相談所を結婚目的外での利用が怪しまれる女性たちを調査するキュータ。そんな中、過去に因縁のある男が現れ…。最後まで、これかぁ…。無理矢理、最終話に仕立て上げた感じがします。確かにあの人は存在感はあったけど、彼の行動の原動力となる感情面での伏線が不十分ですね。そもそもキュータに女性の調査は向かないと思うのだが…。