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MAZE (双葉文庫)

MAZE (双葉文庫)

アジアの西の果て、白い荒野に立つ矩形の建物。いったん中に入ると、戻ってこない人間が数多くいると伝えられている。その「人間消失のルール」とは? 謎を解き明かすためにやってきた4人の男たちは、果たして真相を掴むことができるのか…? 異国の迷宮を舞台に描かれる、幻想的な長編ミステリー。


間違いなく恩田陸さんは読ませる作家さんである。それは確かなのだが、どうもペース配分を考えずに想像力の翼を全力で羽ばたかせ過ぎである。しかも着地は滑空時に辺りを見渡して一番齟齬の少ない地点を無難に選ぶ、という消去法的な結末が多い。読者の興奮のピークの運び方が早すぎる。カオスをコスモスにする論理がミステリの醍醐味なのに、恩田作品ではカオス状態の方が明らかに魅力的。特に本書では読者を安眠から一気に叩き起こすような結末は読後感を一層悪くさせた。中盤の興奮に負けないぐらいの結末を用意できれば天下無敵になるだろうに、自分の想像力暴走をどうも制御し切れないのかな。
本書のメインの謎は「あらすじ」にある通り、一定の「人間消失ルール」を有すると推察される白の矩形の建物、それ自体の謎を解き明かすというもの。実地調査はその人間が消失する恐れがあるので、飽くまで建物の外側から当地の説話、過去の調査体験談(建物に侵入した全ての人間が消失する訳ではない)から建物の実像に迫っていく。まずこの安楽椅子型探偵の頭脳ゲームでミステリとしての型を守りながら、1話目から設定や漂う雰囲気が既存の作品とは違う事を早くも予感させる。この時点ではどこに、どのジャンルに着地点を見出すのか不明で、無限の選択肢の中からどの道が選ばれるのかという胸の高鳴りがあった。
本書の主役はこの白い矩形の建物、通称「豆腐」だろう。そこは当地では禁断の聖地であり、また作中には怪物の住まう神話的な神殿になり、また(ネタバレ→)それ自体が意思を持つ生物(←)ともなる。外観は変わらないが、それが内包する負のエネルギーの変容に何度も驚愕した。中盤に「豆腐」に閉じ込めていた悪しき存在が徐々に現実を、仲間たちの中に侵食していく様は本当に怖かった。ジャンルを超越した、ジャンル分けなど無意味な中盤はただただ圧倒的で、息を呑み背筋を凍らせながらも、本を置くという選択肢は消失していた。
本書のピークは2,3話目の終盤である。ピーキングの失敗が本当に惜しい。各話の終盤は瞠目する展開が待っていた。ずっと同じ場所に留まりながら、彼らの周囲の世界の理だけが形を成さない。が、4話目は不定形な世界を現実に戻す真相という点では及第点ではあるが、前述の通り無難な着地点を右往左往して漸く見つけたという印象が拭えない。そもそも強引に連れ出した満の存在理由が説明されるどころか、これでは厄介者でしかないし…。恵弥の側の問題なのか? この感想文では登場人物に全く触れてないや。
作者のフォローをするならば初出は小説誌の連載であり、各号に見所を作らなければならなかったという事情もあるだろう。リアルタイムに連載を読んでいたら、こんなに待ち遠しい作品も類を見ないはず。連載としては理想的な展開なんだけど、間を置かずに一気呵成に読むと終盤の減速が一層際立った。
恩田作品で印象的なのは本編とは関係ない各人の語るエピソードがいつも好き。登場人物たちの性格を容易に計り知る事が出来たり、現代の男女関係や社会問題の視点にハッとさせられる事が多い。他の(女流)作家さんとは違い恩田さん自身の声高な主張や社会への不満だという事をそれ程感じさせない所が良い。

MAZE   読了日:2010年08月22日