《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

遠く離れて暮らす孫娘りんのため、大富豪がお目付け役に送り込んだ青年山吹みはる。「誰も嘘をつけないのよ、きみを前にすると」彼が短いあいづちを打つだけで、人々が勝手に記憶の糸を辿り、隠された意外な真相へと導かれる。異能の名探偵が挑む謎の連鎖。殺人の動機、不倫に隠された秘密。精緻な論理で明かされる意外な真相。精緻なロジックで事件が分析、推理されていく究極のアームチェア探偵新登場。


話相手の潜在意識を言語化させ、心の奥にわだかまる不審事を当人に推理展開させ真相を喋らせてしまう“超能力”を持つ青年・山吹みはるが探偵役というとんでもない、しかし西澤さんらしい設定のミステリ。探偵は何もせず相談者が勝手に真相を語りだすなんて、まさに完全無欠の探偵だが、ミステリとしては相談、即、自己解決なんてナンセンスのはず。ところがどっこい(笑)、上手いもので相談者のわだかまりを過去に配置して回想・会話による事件の再構成で謎を明確にしつつ、“超能力”による解決を成立させている。かくして世にも珍しい頭の切れない名探偵の誕生するのだった。 “超能力”と西澤作品の相性は初期の頃から良い。本来は独り善がりであるはずの推理も、かなりの説得力がある。というのも元々西澤作品では探偵役が行動して物的証拠を調べたりせず、思いつきの空論を並べ、その中から齟齬のないモノを真実に一番近いと判断する場合が多いからである。なので本書の超能力は西澤作品の個性に合った能力といえよう。
本書の特徴は前述の設定と、長編に見せかけた連作短編集のような作品である点。能力者・みはるによって登場人物たちが勝手に語り出す経験談はもちろん個人的な話なのだが、「辺鄙で僻地で地の果てである高知」は狭く、語られる話の中の登場人物が微妙にリンクしている。個々の謎が短編のように解かれる話でありつつ、相互リンクによって読者の頭の中に高知の一地域での人間関係図を作成させる。そして、徐々に一人の女性の死、その裏の事件が浮かび上がらせる手法になっている。ただ、そんなに関係者が繋がり続けるのかという疑問と、登場人物と事件が多すぎて複雑になり過ぎる問題点もある。前者は終盤に説明がされているが、後者は名前の読み辛さ・土佐弁と相俟って本書の減点対象になる。プロットを練る段階で全体像をもうちょっとスマートにするべきだったとは思う。
久しぶりの西澤作品だったけど相変わらず奇抜で理解するのに苦労する設定だった。なので、どうしても序盤はスローペース。だが中盤以降はその設定にやみつきになるのも西澤作品。推理としては根拠が薄いけれど、おぉと唸ってしまう真相が待っている。ただ最後のどんでん返しは着地が乱れたようにも見える。余計と言えば余計ではないか。また超能力や「鳩」の説明も理解しにくく、明快なカタルシスとはならなかった。あの人の超能力、すっげえ遠回りだし…。

完全無欠の名探偵かんぜんむけつのめいたんてい   読了日:2007年04月19日