《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

「困っちゃった、わたし、人を殺したの」結婚するから別れて欲しい、と言われ、かっとなって相手を突き飛ばしたところ、打ちどころが悪くて死んでしまった、という友人の告白を聞き、内縁関係にある女性で結成したグループの面々が架空の犯人をでっち上げたまでは良かったが、いないはずの人物に瓜二つの人間が実在したから話は混沌として…。予断を許さぬ展開と意外な結末。


常に読者の読みの斜め上をいく小説。まず設定が風変わりだ。過失で人を死なせてしまった友人の女性を警察の容疑者の輪から外す為、事件の重要参考人として全く出鱈目の架空の人物を創り上げるある共通点を持つ女性グループ。ふむふむなるほど、本書は倒叙式ミステリで、友人の犯行をいかに警察から隠匿するのか、などという当たりは見事に大外れ。なんと警察はでっち上げの証言を信じて、彼女を露ほど疑わないではないか。一安心する女性グループだったが、この事件で多大な迷惑・実害を被った人物が一人だけいた。それは出鱈目な架空の人物が具現化したとしか思えない特徴を持つ罪なき一般男性だった。その男性の友人たちが彼の覚えのない汚名を返上しようと事件の解決に躍起になる。そして一方で被害者の婚約者は事件当日の行動を全部監視していた。そこで目撃した被害者と接触した謎の人物。加害者は架空の人物を作り、架空の人物が実在の人物を苛み、更には実の加害者が本当にいた!? 嘘を付く女性グループと、瓜二つの人物のいる男性グループと、バツ一の婚約者らの混成グループの三つ巴の争い。追いつ追われつ、二転三転する事件の真相とは…。
という感じに意外な方向ばかりに進路を取る小説。正義感の強い人(真っ当な人)なら、人の死の時点で自首をして法の下に罪を裁いてもらいなさい、と序盤の展開に疑問や嫌悪感を抱くかもしれない。しかしそれでは意外性もないしお話にならない。そんな心情的な違和感を少なからず軽減してくれるのが、主人公たちの属する女性グループのとある共通点である。それが通称「IG」=「Inside Group」、略して「インサイ」⇔「内妻」、すなわち法律上の夫婦ではない内縁関係にある者たちの集まりであった。事件に直面して尚、彼女たちが協力を申し出るのは「IG」としてこれ以上、社会から制裁を受けないようにというマイノリティの結束力がある。また、このマイノリティの現況への言及や彼女たちの奮闘を快活に描く点は、常に弱者の視点を忘れない天道作品共通の特徴と言えよう。
しかし中盤〜終盤までも斜め上をいき続ける展開には徐々に着いていけなくなっていった。本書最大の欠点は「面白くなりそうでならなかった」という展開だろう。三つ巴の構造はよく配置できているが、しかし250ページ弱に3グループ10人の人物が犇めき合う展開は雑然とし過ぎていた。その上、素性(本名)を明かさずに調査したり、人違いなどという展開があったりでもう誰が誰だか分からなくなった。どの人がどの情報を握っているのかやや混乱したまま、物語は終盤へ雪崩れ込んでいったという慌ただしさが目に付いた。終盤の「どちらかが彼を殺した」という犯人が見極められない展開は意欲的で、更に結末も斜め上をいっていた。そう言えば真犯人の性格はそう語られていたな、という記述を思い出す。だが、その後の変貌は意外というよりも呆気に取られてしまった。
警察が登場しそうでしない小説なので、情報収集は聞き込み、そして新聞・ラジオである。マスコミまで仔細に事件の情報を伝えるのは一般人主人公で隠匿側ゆえの御都合主義か。また騒動の発端になったモンタージュの有用性と人権についても考えさせられた。63年出版の本書の後の「3億円事件」や「グリコ・森永事件」などのあの有名なモンタージュと瓜二つの人が日本中に一人は居たはずである。あれの所為で陰口を叩かれ迷惑を蒙った人、嫌がらせを受けた人、嫌な渾名を付けられた人、色々いるはずなどと考えた。

死の内幕しのうちまく   読了日:2011年01月19日