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ブラディ・ローズ (創元推理文庫)

ブラディ・ローズ (創元推理文庫)

美しい薔薇園に包まれた邸に相沢花梨は嫁いだ。二番目の妻良江が謎の墜死をとげた直後。邸には主の苑田俊春のほか、足の悪い妹、家政婦、お手伝い、園丁が住む。最初の妻雪子への思慕が邸内に満ちる状況下で、早々と三番目の妻花梨に向けられる何者かの憎悪! あなたは雪子になれない、良江の二の舞、と告げる脅迫状が次々届けられる。華麗にして残酷なロマンティック・ミステリ。


陳腐な表現かもしれないが、薔薇の香り、嫉妬の香り、渦巻く悪意にむせ返りそうな作品。序盤は何が謎なのか明確に分からず、登場人物たちもどこか宙に浮かんだままのように生きていて、なかなか作品に入り込めなかった。中盤までミステリとして面白いのかと心配していたけれど、後半に明かされるどんでん返しの数々には参った。読了すると間違いなく良質な本格ミステリでした。
登場するのは三人の妻たち。この世からいなくなっても尚、薔薇の家に大きな影響力を残す最初の妻雪子。そしてその存在に自分の意義を失っていく二番目の妻良江、そして三番目の花梨。途中で挟まれる二番目の妻良江の日記によって、花梨のとる行動が哀れに死んでいった良江の行動と同じである事が判明する…。女性ならではの細やかな心理描写で、屋敷内での雪子という圧倒的な存在に懊悩する花梨の心理がよく表れている。だがこの時点では小説としてはともかく、ミステリとして面白くなるのかは疑問だった。そんな不安を持ち始めた中盤に花梨に届く脅迫状。完全に疑心暗鬼になって屋敷内の誰も信じられない追い詰められていく花梨の様子にページを捲る手が止まらなくなって…。
極めつけは終盤に明かされる大掛かりなトリック。前半の時点では全く予想もしていなかった、不意の大技に驚かされた。割と地味な前半だからこそ、後半の派手さが良く際立ってくる。この対照的な構成に作者の狙いがあったのか。この危うげに成立するトリックはかなり好きです。そして、もう一つ脅迫状の送り主の意外さ。花梨が屋敷内の人々のアリバイを照らし合わせながらも突き詰められなかった真相。ご都合主義的な部分もあるが、送り主の暗い情念に圧倒された。
ただ薔薇園の住人は勿論だが、二番目の妻の冷遇や無残な死を前にしてもその中に入ろうとする花梨が苦手だった。ミステリとしては非常に面白いトリックを使った作品だと思うが、排他的で非現実的な生き方をする登場人物たちの心理は受け入れられなかった。衝撃的なラストも含めて、この小説の異様な世界感に気分が悪くなってしまった。エゴイストだらけの邪気に中てられてしまった。

ブラディ・ローズ   読了日:2007年05月19日