- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/12/22
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 30回
- この商品を含むブログ (166件) を見る
孤独なときは孤独だよ。見せないだけさ。心やさしい男と女と神様の切ない愛の物語。 三億円の宝くじに当たった河野勝男。会社勤めをやめ、碧い海が美しい敦賀の街でひっそりと暮らす彼は、ファンタジーという名の「できの悪い神様」に出会い、恋人を得、同僚だった女友達と旅に出る。しかし…。福田和也氏が「いずれ世はこの作品に栄誉を与えなかったことを恥じるでしょう」と評した、川端賞受賞作家の初長編。
登場人物の中で河野さんが特によかった。彼の思いやりあふれる優しい関西弁の口調がよかった。つき合っている彼女よりも自分の選んだ土地を選ぶ姿がどこか客観的には魅力的に思う(当事者だったら嫌かも)。各所に散りばめられている彼のエピソードが、どれも今の彼を形成しているモノとして馴染んでいるのが良かった。彼の浮世離れした生活や性格はこのようにして出来上がったのかと納得。宝くじや雷は彼のような人に当たるべきであると思った。宝くじなら私も当たりたい。物語は大きく分けて、河野とファンタジー、そして元同僚・片桐で車の旅をする前半と、独りになった河野が恋人・かりんと過ごす後半の二つに分かれると思う。私は前半が特に好き。陽気な旅ながらも、それぞれの登場人物の想いの矢印が別の方向を向いている所は切ない。交わされる会話は鋭い真理を含んでいる。作中の会話には何度もハッとさせられた。どこか哲学的で、そして厳しい。そこに真実がある気がする。作中のGDPの話ではないが、世の中の全ての事は連鎖していて因果があるように思える。それは後半の河野の悩みにも繋がる事になる。その後半は、どこか寂しくて前半との文章の印象とガラッと変わる。ひと夏の旅行に比べると駆け足で切ない。そしてどことなく展開が小説的であるとも思った。
私の性格と感性(読解力)ではこの手のTHE小説は評価・感想が難しいのは分かっていた。だってファンタジーってなんなの? 卵って? 最後の最後の描写は…? と割り切れない事がいっぱい。誰かの模範解答を読まないと気がすまない。この小説の何分の一も楽しめてないのでは?と思うと落ち着かない。この本の感触を次の本を読めば忘れてしまうかもしれないし、何年たってもファンタジーを思い出すかもしれない。そこがあやふや。こんな読み方はいけないのかもしれないけど。余談だけれども、「できの悪い神様」ファンタジーは森絵都さんの『カラフル』に登場するプラプラを連想した。どこか飄々としている所が似ている気がする。