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イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

引っ越しの朝、男に振られた。やってきた蒲田の街で名前を呼ばれた。EDの議員、鬱病のヤクザ、痴漢、いとこの居候―遠い点と点とが形づくる星座のような関係。ひと夏の出会いと別れを、キング・クリムゾンに乗せて「ムダ話さ」と歌いとばすデビュー作。高崎での乗馬仲間との再会を描く「第七障害」併録。


絲山さんのデビュー作。先ほど、作者のホームページで経歴を見たのですが、そこに書かれている事からすると、どうもこの本に収められている2編は作者の実体験した事や生活が基になっているようだ。そんな身近な引き出しを開けてしまって大丈夫なのだろうか?と心配になるけれど、現在の評判を考えると、どうも大丈夫らしい。才能は枯れないものらしい。『海の仙人』でも思った事だが、この人は相当、車が好きみたいですね。車名や型まで出てくる小説も珍しいですもんね。

  • 「イッツ・オンリー・トーク」…表題作。あらすじ参照。蒲田は何度か訪れた事があるのでイメージし易かった。私も好きです、蒲田。いい古本屋さんが何件もあったので(基準はそこか…)。とても新人さんとは思えないほど文章が巧みである。特に会話は絶妙。皆さんが、それぞれいい事を言う。何かに気づかされる。小説としての面白さは測定不能。世界や人物は出来上がっているのだけれど、全体に淡々としていて掴み所が無い。つまり感想に困る作品。ソムリエのように喩え話で表現するしかないだろう。それにしても終盤の、あの人のある事実は吃驚。「海の仙人」でも突然驚かされたが、今回も何の気なしに読んでいたら驚かされた。それは飽くまで余談だけれど。彼女はどんな絵を描くのだろうかが気になる。
  • 「第七障害」…群馬県馬術大会の障害飛越競技で人馬転倒し、馬を安楽死させてしまった事を忘れられない順子は馬に乗る事を避けて生きるようになった。彼女は馬と群馬を離れ東京で暮らし始める。「イッツ〜」よりも説明の文章が多いので、ストレートに読みやすい作品。私は、こちらの方が分かり易くて好き。これは傷を負った人の再生ストーリーだ。恋愛小説としても面白い。普通の、よくある小説だと同居することになった元彼の妹・美緒が素晴らしくいい人に描かれるが、主人公が感じる少しの違和感が描かれている所が好き。何となく、絲山さんらしいと感じた。私は絲山さんをシニカルで不器用な人だと設定してるらしい。

イッツ・オンリー・トーク   読了日:2005年04月09日