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ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)

ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)

見た目は愛らしいぬいぐるみだが、中身は心優しき中年男・山崎ぶたぶた。彼が作る料理は、どこか懐かしく切ない思い出の味だ。大好きだった祖母が作ってくれたチャーハン、遠い夏休みの記憶を喚び起こすかき氷…。それらが、傷つき疲れた人々の心をときほぐし、新たな一歩を踏み出す勇気を与えてゆく。心の奥をほんのりと温めてくれる、傑作ファンタジー


タイトル通り、料理上手のぶたぶた氏と彼が作る料理と悩める人というトライアングルで構成されています。出てくる料理が本当に美味しそう!手がかかってるんじゃないのに絶品だろう素朴な味が伝わってくる。新たなお腹が鳴る小説です。他には芦原すなおさんの『ミミズクとオリーブ』恩田陸さんの『木曜組曲』がその部門の代表小説です。ご飯前はお腹の音に要注意です!
そして今回は新たな要素がありました。それは時間軸。今までのぶたぶたシリーズにはなかった過去の話、そして未来の話が「十三年目の再会」や「最後の夏休み」では語られています。時間軸を加えることによって、ぶたぶたの特異性がまた一つ浮かびあがってきました。今回はそこが奥深さやある種の暗さをもたらしていると思います。ちょっぴり大人のビターなぶたぶた氏が見られます。
最終話の家族構成の話は本当なんでしょうか!? なんだか一気にメルヘンじゃなくなってしまったと私的には残念。ここも暗い感じの一つです。「西澤保彦」さんの解説は西澤さんらしい心理的な考察でした。彼以外に誰がこんな読み方をするであろうか、と思った人は数知れないだろう。難し過ぎる…。

  • 「十三年目の再会」…祖母の思い出の地に引っ越した由香は、町の中華料理屋で祖母のチャーハンの味に再会する。一体なぜ祖母の味が…? 時の流れがある話は感傷的になりますね。ぶたぶた氏の独身時代が描かれているのが面白い。
  • 「嘘の効用」…10年間勤めた会社を退職し、暇を持て余した谷萩は、ふと目にした男性だけの料理教室に入ることにした。そこには…。この本の中で一番料理っぽい料理。これは美味しそう。これは料理教室なのか?という疑問もあるけど。おさんどんのぶたぶた氏もいいな(笑)ぶたぶた氏の苦労が描かれていて痛い。
  • 「ここにいてくれる人」…軽い鬱病になった美澄は以前の自分を取り戻そうと願っていた。が、意志とは正反対に昔の自分は遠ざかる…。シリーズでは毎回描かれているぶたぶた氏の存在だけでも人に変化をもたらせるという代表的な例。
  • 「最後の夏休み」…親戚の家を転々としていた小学生時代の中で一番輝いていた夏休みの思い出。ただそこには一番辛い思いでもあり…。これも時間の経過が描かれている作品。ぶたぶた氏の家族構成には納得がいかない私です。

ぶたぶたの食卓ぶたぶたのしょくたく   読了日:2005年12月06日