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生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術 (新潮文庫)

生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術 (新潮文庫)

この本は絶対に立ち読みできません。はじめに袋とじのまま、短編小説の「消える短編小説」をお読みください。そのあと各ページを切り開くと、驚くべきことが起こります…。そして謎の超能力者と怪しい奇術師、次々にトリックを見破るヨギガンジーが入り乱れる長編ミステリー「生者と死者」が姿を現すのです。史上初、前代未聞驚愕の仕掛け本です。読み方にご注意してお楽しみください。


ヨギ ガンジーシリーズ第3弾。第2弾の『しあわせの書』で驚天動地のトリックを成立させた作者が、今回も前代未聞のトリックを仕掛けた。『しあわせの書』の大仕掛けは作中で明かされるものだったが、今回は仕掛けが表紙に堂々と記載されている。「消える短編小説」。書籍に施された袋綴じを開封せずに読むと短編小説、開封すると短編小説の文章は長編小説の一部になるという仕掛け。印象としては「消える」というよりも「溶け込む」の方が近いかもしれない(「消える短編」の方がインパクトは強いが)。当たり前の話だけれど、袋綴じを開封する前も後もそのページの文字の配列は1文字も変わらない。けれど、その変わらないはずの文字列は前ページの要素と化学反応を起こして別の物質に変化してしまう。人も物も名前も場所も何もかもが変化するのだ。読者は2度同じ文字配列を見ていながら、頭の中では全く別の2つの風景として認識している。叙述トリックの連続と言えばいいのだろうか、驚きは16ページに1度必ずやってくる。幾度も訪れる自分の頭の中の情報との相違。私はその中に、同じ情報でも発信側の伝え方によって受け手が得る印象はガラリと変わるのだよ、という深いメッセージさえ感じてしまった。
今回も読了して分かるのは、やはり作者の根気と情熱、そして着想を形に変える技量の高さ。再び『この本が、世界に存在することに(by.角田光代)』感謝をせずにはいられない。私が最も好きなのは「あとがき」のあの部分。徹頭徹尾、作者の仕掛けに打ちのめされた感じがとても心地良い。職人魂を感じる。
ただし前代未聞のトリック「消える短編小説」を成立させるために、小説としての質が犠牲になっている事は否めない。全26ページの短編小説は展開が早く、登場人物の行動や心理描写に不自然な部分が多々見られて頭に入らない。また全201ページ長編もやはり通常の泡坂作品に比べれば見劣りする。ヨギ ガンジーシリーズながらガンジー一行が登場するのは袋綴じを開封した長編小説のみ。今回は宗教団体ではなく超能力の存在の有無を巡る争いを繰り広げる。強烈な個性を持つガンジー一行だけれど、今回はそれ以上に強烈な構成ばかり印象に残るため、彼らの影は薄い。超能力に見せかけた数々のトリックも同じ。本編をなおざりに読んだつもりはないが、今回ばかりは主役は本そのものだろう。

生者と死者  酩探偵ヨギガンジーの透視術せいじゃとししゃ  めいたんていヨギガンジーのとうしじゅつ   読了日:2008年08月06日