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フィッシュストーリー (新潮文庫)

フィッシュストーリー (新潮文庫)

伊坂ワールドの名脇役たちが遭遇する、「別の日・別の場所」での新たな事件。 売れないロックバンドが、最後のレコーディングで叫んだ音にならない声が、時空を越えて奇蹟を起こす。伊坂幸太郎の真骨頂とも言える多重の企みに満ちた表題作他、読者人気の特に高い“あの人”が、今度は主役に! デビュー第一短編から最新書き下ろし中編まで、変幻自在の筆致で編んだ伊坂流ホラ話の饗宴。


『魔王』の感想でも書いたけれど、私は伊坂さんを「反復の名手」だと思っている。同じフレーズでも繰り返しによって、違った含みを生じさせたり、深い感動の起爆剤にしたりする。しかし、そういう伊坂さんの性質は、長編や連作短編集でこそ活かされるものなのかな、と思った。4つの短編はそれぞれに面白かったけれど、同時に物足りなさも感じた。今回は軽妙で洒脱、という伊坂さんの文体が、反復によって驚愕と興奮に変わる前に物語が終わってしまうのだ。
ミステリ的な仕掛けも途中で察しがついてしまったものが多くて、そこも残念…。
伊坂作品のクロスオーバーもファンとしては見所ですが、毎回、使命のように組み込まなくても、とも思ってしまう。作品世界の繋がりや広さを表しているというよりも、かえって狭さの象徴に見える時がある。でも発見した時にはニヤついちゃいますけどね(笑) 河原崎さん関係は自分では分からなかったなぁ…。

  • 「動物園のエンジン」…毎夜、動物園の檻の前に横たわる元動物園職員・永沢。彼の昼夜の行動を観察すると不可解な事が目に付き…。始めに結論ありきの河原崎さんの牽強付会な推理が面白い。と思っていたら、結末は意外なトリック。
  • サクリファイス」…探偵業の人捜しのため、ある集落を訪れた泥棒・黒澤。彼は最初に出会った第一村人から、村の人間関係と不思議な風習「こもり様」の話を聞く…。伊坂さん+民俗学。現実的・現代的な真相と、土地が生んだ制度・伝説、目には見えない物への畏怖が絶妙なバランスで混合されている。沈着冷静な黒澤が慌てる場面には笑った。そうか年上の女性に弱いのか、半世紀ほど(笑)
  • 「フィッシュストーリー」…1冊の小説から誕生した、隠れた名曲、人の出会い、そして正義の味方。現在と過去、更に過去、そして未来のお話。一番好きな短編。結果を先に出してから、原因を後述する。読むほどに音が重なるような感覚で、最後で完成した1曲と無音の間奏になる。「礼なら、父に」のセリフがとても良い。
  • 「ポテチ」…黒澤の知り合いで同業者の今村は、プロ野球選手(補欠)の尾崎の家を物色中に、女性からの助けの電話を聞き…。伊坂流スポ魂小説と言えなくもない(言えないか…)。冒頭から登場する漫画は、2つの意味で暗示的。物語が重力ピエロと深く関わってる一方、同じテーマを繰り返しているようにも思えた。タイトルはこれがベストなのかしら? ここは思い切って(→)「タッチ」(←)でも良かったのでは…?

フィッシュストーリー   読了日:2007年03月14日