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チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々。何気ない日常に起こった5つの物語が、1つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。


カタルシスっ!読み終わった後の爽快感は無二のもの。私自身は本を読んだだけなのに、読み終えると何だか世界が明るくなったように思えるのが不思議。ありがとう、伊坂さん。登場人物も全員が魅力的に映り、どの人とも出会えてよかったと思えるそんな小説。基本、奇天烈な陣内を中心とした5つの物語。5つの物語は個々に独立していて単体でも楽しめるのですが、陣内の幾つになっても変わらない奇抜さで根底が繋がっている。時系列の違う短編を巧く繋げてしまうのが伊坂さんの巧さである。どこかで発した言葉が、どこかで繋がる。この相互リンクする感じがとても楽しい。一番好きなのは、やっぱり、アノ話です。
そして各短編のタイトルが良い。チルドレンの説明は説得力があって面白かったな〜。「短編集のふりをした長編小説」なので各個に語るのは間違っているんですが、感想をちょっとずつ書いていきます。

  • 「バンク」…閉店間際の銀行に入った鴨居と陣内は、銀行強盗に遭遇してしまい人質となる…。陣内の珍行動の序章。最初は奇抜に見えた彼の行動も後になると普通に思えるから不思議。ミステリ的にもディティールまで練られてて好きです。
  • 「チルドレン」…家裁調査官の武藤は関係がこじれていると感じられる親子と面接する…。ミステリ的にもフェアである。忘れた頃に最初のページの話に戻るのが面白かった。ここに繋がって、ここでもう一捻りか、と感心しきりでした。
  • 「レトリーバー」…陣内の失恋によって駅前の時間が止まった…!?陣内の妄言を検証して明らかになる真実は…。(ぎりぎり)日常の謎。謎の提示の仕方が面白く、もうそれだけでミステリとして上出来なのが決定されていると思う。
  • 「チルドレンⅡ」…珍しく陣内が目をかける一人の非行少年。彼の更生は果たされるのか…。あまりミステリでは無い。イメージとしては重松清さん辺りが書きそうな小説である。ただ、分かりやすい人情話に終始しないのが、とても良い。
  • 「イン」…永瀬と優子は陣内がバイトしているデパートの屋上に出向く…。これは盲目の永瀬が(反転→)「着ぐるみって何?」(←)と聞かないのがちょっと不自然なので、一つのトリックはすぐ分かった。けれど、この作品の面白さは別にある。カタルシスっ!

チルドレン   読了日:2006年01月06日