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君の名残を (下) (宝島社文庫 (488))

君の名残を (下) (宝島社文庫 (488))

源義経木曾義仲、乱世に突如登場した二人の武将は、いかにして英雄になりえたのか。歴史の非情な歯車と闘いながら、必死に運命に挑む友恵と武蔵。時が自分たちを選び、この時代に運んだことに果たしてどんな理由があるのか。その意味を知ったとき、二人はそれぞれ愛する者のために大きな決意を胸に秘めた……。大胆な着想で「平家物語」を慟哭のロマンスへと甦らせた、著者渾身の一作。


下巻。その時、歴史は動いた。時代の主役たちと、それと行動を共にする者たちは、それぞれに宿願と宿命を抱えながら戦乱の地に赴いていく…。
下巻も前半は引き続き普通の歴史小説に近く、木曾の義仲・鎌倉の頼朝・奥州の義経、東日本を結ぶ源氏トライアングルの中でまず歴史の主役に躍り出た義仲の入京までの活躍が描かれる。神出鬼没の右眉に傷を負う男が運命を握る神や仏ならば、疫病神は叔父・行家である。行家が行動する度に私はこの男に憎悪の炎を燃やした。私にとっての宿敵は平家や頼朝でなくこの男だった。
「盛者必衰」とは平家の事を指すはずだが、時代の主役に躍り出た者たちもその理からは逃れる事が出来ないらしい。生来の宿願を果たしてしまった者たちは時代からの退場を余儀なくされる…。下巻でのクライマックスはやはり雪の山中の場面だろう。義仲と友恵、義経と武蔵の初の邂逅。まずは友恵の運命との対決である。彼女はただこの時の為に己の手が血に染まる事も厭わなかった。果たして彼女は人生を賭けた運命に打ち勝つ事が出来るのか…。
やがて時を超えて来た者たちはその理由を知る。なぜ自分が選ばれたのか、その定められた使命について。そして終盤、ネタバレになるので詳細は書けないがラストの展開は私の想定外の動きを見せた。後世に残る伝説や史実を元にはしているが、その解釈は大幅に違った。本書では時の流れが大きな意志を持つが、彼らは最後まで愛を貫く事によってその運命と抗ったと言える。静かな幕切れまで読み、作中の「異物を得た歴史はその痕跡を消そうと作用する」という言葉や『君の名残を』という書名がいつまでも深く胸に留まり続けた。
歴史上の出来事が実に見事に交通整理されているため、受験勉強の際にも分からなかった源平合戦の流れが大方理解できた。また歴史の転換期の躍動感、権力者たちの権謀術数に加え、SF的要素として時代の主役を創り上げた存在・絡み合う運命などを用いる事で、時代が変遷する大きなうねりを感じさせてくれた。また、いまいち影の薄かった志郎も次の乱世(思想の転換)の主役となるように配置しているのも心憎い。ただし後半に何度も出てくる時の流れや運命についての説明や、友恵の焦燥だけは同じ事の繰り返し、としつこさを感じたかな。

君の名残を(下)きみのなごりを   読了日:2009年03月16日