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りかさん (新潮文庫)

りかさん (新潮文庫)

リカちゃんが欲しいと頼んだようこに、おばあちゃんから贈られたのは黒髪の市松人形で、名前がりか。こんなはずじゃ。確かに。だってこの人形、人と心を通わせる術を持っていたのだ。りかさんに導かれたようこが、古い人形たちの心を見つめ、かつての持ち主たちの思いに触れた時…。成長したようことその仲間たちの、愛と憎しみと「母性」をめぐる書下ろし「ミケルの庭」併録。


収録されている2編は『からくりからくさ』の「その前」と「その後」の話である。「その前」の話の「りかさん」は、小学生時代のようこ(ひらがな表記)と人形のりかさんとの出会い、またようこに多大な影響を与えた祖母が存命だった頃にようこ・りかさんとの交流の様子が描かれている。大人になっても蓉子が祖母の事を大好きだった事は『〜からくさ』でも窺い知れたが、本編ではその二人の関係をかけがえのないものとしたある事件とその中での彼らの具体的な心の交流が読める。
「その後」の短編「ミケルの庭」では、新しい家の新しい家族との新しい生活が少しだけ描かれている。両編とも『〜からくさ』と重なる部分が隠されており、それを発見し「その前」と『〜からくさ』と「その後」の確かな時間の流れと繋がりを感じるのは楽しかった。しかし「りかさん」ではようことりかさん、そして祖母の運命を知っているので彼女たちの交流が温かければ温かいほど悲しくもなった。

  • 「りかさん」…少女時代のようこの能力開眼編とも言える短編。本編では『〜からくさ』でも重要な位置を占めながら黙ったままだったりかさんの「声」を聴ける。りかさんとの出会いによって、あらゆる物の「想い」に翻弄されるようこだったが、りかさんと祖母の導きにより、次第にその「想い」に引き摺られずに対峙する方法を学んでいく。人や物の「想い」に向き合う姿勢をようこを諭す祖母の言葉は『西の魔女が死んだ』の魔女と同じぐらいに深く優しい言葉だった。あらゆる物の、人間世界の厳しい「想い」を感じ取った彼女だからこそ、『〜からくさ』で同居人たちが目撃する蓉子の「優しい手」を獲得したのだと納得した。また現実的な能力では蓉子が染物に魅了される瞬間が描かれているのも見逃せない。本書を読んでからもう一度『〜からくさ』を読むとまた別の視点で物語を楽しめそうだ。
  • 「ミケルの庭」…『からくさ』の後日談が読めて嬉しい反面、全体的に苦しい短編。あぁ、彼女はどうしてこういう苦悩を背負ってしまうのか、と悲しくなった。しかし物語の結末は「彼女」がまだ見ぬ世界への広がりを表していて救われた気持ち。これまで以上に「庭」と「世界」の関係性が直接的な言葉で描かれている。

りかさん   読了日:2008年07月20日