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素敵小学生・田村久志の記憶と共に各人の40年間が甦る。

田村はまだか (光文社文庫)

田村はまだか (光文社文庫)

深夜のバー。小学校クラス会の三次会。四十歳になる男女五人が友を待つ。大雪で列車が遅れ、クラス会に間に合わなかった「田村」を待つ。待ちながら各人の脳裏に浮かぶのは、過去に触れ合った印象深き人物たち。今の自分がこうなったのは、誰の影響なのだろう…。それにつけても田村はまだか? 来いよ、田村。人生にあきらめを覚え始めた世代のある一夜を、軽快な文体で描きながらも、ラストには怒涛の感動が待ち受ける傑作。


小学校クラス会の三次会、その会場となっている一軒のスナック。そこに遅れて来る元同級生の田村久志を待っている小説。ただそれだけ。なのに待つのはとても楽しく、本書はとても面白い。狭い店に集う小学校時代の同級生男女5人と店のマスターの計6人と共に、「田村はまだか!」と苛立ちながらも、同時にその焦れも楽しんでいる。その間に同級生たちの話から小学生時代の田村の姿を思い浮かべ、そして30年近く経った満40歳の田村を想像する。体型は変わったのか、あの田村の田村らしい性格は変わってしまったのか。期待と不安でヤキモキしながらも田村が現れる瞬間を、ひたすら待つ。なぜなら彼らの話す田村久志に心底、魅かれたから。なんて素敵な田村! そんな素敵小学生の田村の成長した姿を私だって一目見たいのだ。第一話「田村はまだか」だけでも満腹の一冊。久々に完璧な、私好みの小説に出会った気持ち。

第二話以降、田村を待つ間に語られるのは同級生たちの人生のエピソードや回想。満40歳まで到達した彼らの人生の印象的な出来事、出会い。第一話の時点では田村とその仲間たちだった同級生5人とマスターも次第にその人格が読者の中に形成されていく。彼らは自分の人生が平凡な、ありふれた人生だと悟ってしまったから、小学生の頃から非凡だった田村に期待を寄せるのかもしれない。

しかし第五話のラスト数ページから続く展開が私は嫌い。自分好みの展開だけが好き嫌いの判断基準の全てではないが、瀬尾まいこさんの『幸福な食卓』読書時にも感じた不必要な、藪から棒のドラマ性が真に残念。この展開でなくても…、と作者に怒りすら感じた。それなら第一話のマスターのあの予感で終わった方が良かったかも。などと言いつつも、最終話の終幕も好きなんですけど。短編集の世界の広がりか、一話完結の密度の濃さ、どちらを取るか。田村はまだか。

読後感だけで分類すれば爽やかな小説だけれども、その中には満40歳になる男女の酸いも甘いも経験した人生が凝縮されていて、爽やか一辺倒の小説とは明らかに違う。心温まる話と同じぐらい下世話な話もあって、でもそれらが良い塩梅で混合している。そしてそれが人生なのかなと思ったりした。
回想や一部を除いてほぼ1シチュエーション(スナック「チャオ!」店内)の話。薄暗い店内に気心の知れた元同級生たちとマスター。何でも明け透けに話し、扉が開かれるのを待っている。酔いで気が大きくなる部分と冷静になる部分、その店舗内の風景や雰囲気も十分味わえた。だから私も待っている気になれたのだ。

  • 「田村はまだか」…表題作。同級生たちと田村。主役は不在の田村。伝聞の田村が実体となる瞬間。私、待つわ。田村に会えるなら、いくらでも待つわ。
  • 「パンダ全速力」…上司と部下の関係。あれっ、この人ってもしや…!?
  • 「グッナイ・ベイビー」…教諭と生徒。展開や設定はややベタな話。ただし今にして思うと、この短編全体が最終話への伏線だったのかもしれない。
  • 「きみとぼくとかれの」…ブログの書き手と読み手。そして…。中盤の展開には驚いた。果たして彼は知りたいのか、知りたくないのか。少々、自己愛が強い?
  • 「ミドリ同盟」…元夫、元妻、現妻。これもまたベタな話か。苛立った班長が心中で毒づく同級生たちの姿(欠点)もまた彼らの姿なのだろう。
  • 「話は明日にしてくれないか」…田村と全員。または被害者と加害者。田村はこれからも田村であり続けるのだろう。大団円とは思いたくないが大団円。

田村はまだかたむらはまだか   読了日:2009年05月03日