- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1993/01/09
- メディア: 文庫
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僕は三田村誠。中学1年。父と母そして妹の智子の4人家族だ。僕たちは念願のタウンハウスに引越したのだが、隣家の女性が室内で飼っているスピッツ・ミリーの鳴き声に終日悩まされることになった。僕と智子は、家によく遊びに来る毅彦おじさんと組み、ミリーを"誘拐"したのだが…。表題作以下5篇収録。
デビュー作から上手い。何といっても話の運びが物凄く上手い。ぐいぐい読者を物語の先へ、中へ深く引っ張る才能。これは天賦のものかもしれない。
宮部作品には、たびたび10代の少年〜青年が登場する事は有名で、その特徴はデビュー短編「我らが隣人の犯罪」から見られる。しかし本書の中では同時に、20代の青年も主人公・キーパーソンとして多く登場していたように思う。例えば、前述の「我らが〜」の中での誘拐事件を計画する毅彦叔父や、「サボテンの花」の大学生・秋山、「祝・殺人」の駆け出しの刑事・彦根だ。最後の刑事・彦根はともかく、前の二人は子供たちと秘密を共有する良き理解者・共犯者として描かれている。子供たちに良い知恵を授けたり、救いの手を差し伸べたり、ピンチを救ったりと、同じ目線で彼らを温かく見守る青年たちの存在感が印象的でした。
- 「我らが隣人の犯罪」…表題作。あらすじ参照。何と言ってもタイトルが秀逸である。そして子供たちがご近所トラブルを自力救済しようと企てた計画の成否に手に汗を握っていたと思ったら、思わぬ所に着地している展開の見事さも驚くべき点。他にも魅力的な人物造形など宮部エッセンスが凝縮しているデビュー短編。
- 「この子誰の子」…両親が外泊中の雨の夜、突然家を訪れた女性と女の赤ちゃんに驚くサトシ少年。女性は赤ちゃんはサトシの父親との子だというが…。読者の予想を上回る真相を用意する推理部分も面白いが、小説として大変素晴らしい短編。また、このテーマを書こうと思った宮部さんの着眼点にも脱帽です。
- 「サボテンの花」…卒業研究にサボテンの超能力を調べる、と言い出した六年一組の生徒達。彼らの不可解な研究に教師や大人たちは頭を悩ます…。30ページ、30ページにミステリのカタルシスと、感情のカタルシス=涙がある。生徒たちは超能力(テレパシー)を使わずとも、自分たちの想いを自分たちで伝えたのだ。
- 「祝・殺人」…結婚式場に勤める明子が数ヶ月前に目撃した、バラバラ殺人の被害者となった男の奇妙な行動。彼女は刑事の彦根にある推測を述べ始め…。明子の情報収集能力が万能すぎる気もするが、この短編でも宮部さんの着眼点、最新技術の使い方に舌を巻く。最後のオチも綺麗に決まっていて爽快。
- 「気分は自殺志願(スーサイド)」…推理作家の海野は散歩途中の庭園で50代の男性から、自分を殺して欲しいと依頼される…。ある事が原因で絶望し死にたがっている男性を、何の遺恨もなく殺せるか、というどうにも暗い設定。しかし、それを春の陽気のように料理する宮部さんの腕の確かさに恐れ入りました。