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少女漫画と小説の感想ブログです

私が/オレが 書いた小説は、自分が その人のことを どれだけ好きかという気持ちで溢れている。

きみと青い春のはじまり(5) (デザートコミックス)
アサダニッキ
きみと青い春のはじまり(きみとあおいはるのはじまり)
第05巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

クラス一の人気者・高砂に罰ゲームで告白されて以来、人生が一変した元ぼっち女子の末広しろ。初めての部活に、初めての恋、初めての本気告白…と一気に青春イベント大発生! だけど、高砂への思いは伝えられないままで…。そんな中、高砂の過去の秘密が事件を巻き起こして!? ぼっち女子×人気者イケメンのジェットコースターラブコメ最終巻!

簡潔完結感想文

  • しろ の学校生活が彩られる一方で、高砂は人間関係に悩み始める。立場逆転!?
  • 君と同じ高さで同じ星空を見上げて、同じ気持ちが重なる流星群の夜の奇跡。
  • 中学時代の孤独な私も、高校時代の変革する私も作品に昇華されるミューズ爆誕

ろ の書いた小説の題名は何というのだろう、の 最終5巻。

本書の最後でヒーロー・高砂(たかさご)が書き上げた小説の題名が、本書の題名であることが明かされる。そして八千代(やちよ)=寿ミチルの小説は『流星の森』である。ヒロイン・しろ も小説を書き上げ賞に応募したのだが、その題名は明かされていない。気になるところである。

題名こそ明かされていないが、その内容は しろ が見てきた高砂のことであるのは分かっている。そして きっと読んだ人は作者が その作品の主人公を好きだということが伝わってくる内容であろう。
だからこそ八千代は しろ の小説を添削しながら しろ に もう一度 告白したのだろう。しろ の気持ちが痛いほど伝わってきたから、最後に彼女の返事が分かっていても告白と返答を望んだ。八千代が以前に告白した際に(『3巻』)彼は返事は自分という人間を分かってもらってからでいい、と言っていたが、しろ の小説世界 ≒ 彼女の心の中を覗いて、しろ の心が あの時と1ミリも動いていないことを再確認した。

八千代の敗因は高砂よりも早く動かなかった、その一点に尽きるだろう。八千代と しろ は行動が遅いところが似ていたりで、八千代が しろ の世界を広げようとしても、まるで世界が違う高砂の時のような化学反応は起きないかもしれない。
だが それでも中学時代の孤独な彼女には八千代という窓から入ってくる空気は新鮮だっただろう。高校時代でも1年生の早春までに八千代が声をかければ、彼女のために書き上げた小説を愛読する しろ にとっては神の降臨にも等しい奇跡が起きだろう。
それでも八千代は彼女を見守る、という言い訳を盾にして自分の勇気のなさを誤魔化した。高砂という予想外の方向からの しろ への接触があって初めて彼は焦り出した。八千代は正ヒーローではないので、高砂ほど思い悩む描写はないが、きっと彼もまた この数か月、自分の弱さと向き合ったはずだ。
そんな後悔があるから、たとえ傷ついても前に進もうという気持ちになり、2度目の告白に挑んだ。

結果は彼の予想通り。さて、気になるのが八千代の新作の内容である。1作目『流星の森』は八千代の しろ への応援歌でありラブレターだったと思われるが、新作は何を書いたのか。彼が重い腰を上げたのは しろ という愛読者の お陰なのだが、彼女への想いという動機を失った八千代は どうやら書くことそのものを楽しんでいる様子。小説家として成長したということだろうか。


して高砂も物語のラストで自分の書き上げた『きみと青い春のはじまり』を しろ に読んでもらう。そこにはきっと しろ の小説に高砂への気持ちが詰まっていたように、高砂の小説には しろ への気持ちが詰まっている。

高砂は最初は そのことを恥ずかしく思い しろ に作品を読まれるのを躊躇していたが、自分の弱さを克服した彼は それを乗り越える。きっと作品を読んだ しろ は両想いになった流星群の夜の記憶と同じように、この部室での一時を忘れないだろう。読み終わった時、今度は しろ からキスしているかもしれない(照)

ヒーロー側の心の問題、彼の成長を待つという少女漫画の王道パターンを堅持しつつ、しろ も小説を書き上げたり、彼女の方から告白していて成長を感じられるのが本書の良いところだ。まだまだ成長過程という青春のキラメキを感じられる。


アサダニッキ作品の読後感が良いのは、苦みを残さない工夫に富んでいるからだと思う。

例えば高砂の罰ゲームを強要したグループ、鶴原(つるはら)・亀田(かめだ)・吉祥(きっしょう)の名前が おめでたい人たちとも しろ は それぞれ会話をして、彼らとの後腐れがないようにしてある。そして彼らと仲良くなりすぎないのも素晴らしい距離感だ。登場人物たちを全員 仲良くしてしまう少女漫画も散見されるが、イジる側とイジられた側のような遺恨があるのに簡単に雪解けするのは お花畑に見えて好きではない。作者が望む優しい世界観の提示なのだろうけど、想像力の甘さも感じる。

恋愛描写にも素敵な場面が多いが、こういう登場人物の距離感の保ち方に作者の手腕を感じる。

本書では鶴原たちと仲良くなりすぎないのが良い。しろ が獲得する友人は別にいて、それは しろ と本当に気が合いそうな人たちである。言ってしまえば地味なグループなのだが、気軽に本を貸し借りしたりする しろ が当初から望んでいた友人関係が成立している。
もし鶴原グループに入ることになったら、読者には しろ の無理を心配してしまう。そうではなくて、高所から しろ を見下ろしていた人たちが、しろ のことをクラスメイトとして認め悪意を消すだけで十分なのである。いつも こういう塩梅が作者の作品では光っていると思う。

また天文部部長が八千代の覆面作家としての活動を知っていた謎も ちゃんと明かされる。天文部部長もずっと いい感じの存在感を見せており、悪い人ではないのが伝わる。文芸部との交流などは、文化部コメディとも言える作者の過去作『青春しょんぼりクラブ』に通じるものを感じた。人の輪の広がり方と、その距離感の適切さが本当に心地よい。


達をやめると言い出した高砂。彼は想いが高じてキスをしようとするが、身を固くする しろ の反応を感じて我に返る。自分の戒めを破って、自分の欲望を押し付けようとしてしまったことを反省し、頭を冷やす。

そして しろ側の問題は、彼女が創作する小説に表れる。小説の主人公のモデルは高砂だが、しろ は彼への尊敬の念が強すぎて、高砂を完璧な人間として描いてしまう。それでは作品が面白くならないし、物語も空洞になってしまう、というのが小説デビュー済みの八千代の批評。だから しろ も世界が違う人ではなく、高砂の真の姿を見なければならない。

そこで しろ は色々な価値観の人と接する。クラスメイトの鶴原はチア部の一件で肩の荷を下ろしたような生き方を始めたし、その友人で しろ をイジる側の人間だった亀田には謝罪と感謝をされる。
派手な亀田と地味な しろ の会話を心配して話しかけてくれるクラスメイトもいる。しろ は その全員から見た高砂の姿が少しずつ違うことを知る。そして誰よりも深い高砂への理解を望む。


砂の中学時代の野球部の後輩だった松島(まつしま)が、高砂が隠していた真実に辿り着く。高砂は肩が壊れて野球が出来なくなったことを監督以外に口止めし、飽きたという不誠実な理由で周囲を幻滅させていたのだ。だが松島が怪我をして通院した病院で会った監督に真実を聞いた。

高砂の不誠実さに怒る松島の詰問を上手にはぐらかせない自分に気づき、高砂は混乱する。これまで そつ なくやれていたことが出来なくなっている。しろ という世界の違う人間との接触は、しろ を変えたけれど、同時に高砂も変えた。人付き合いが難しい。

これまではノリで生きてきたし、周囲もマジメなことを嫌っている。周囲が自分に望む姿を演じてきた高砂だが、そのヴェールは剥がれ、自分の「核」が顔を出し始めた。

そんな高砂の現状を見抜いた しろ は授業をサボって屋上へ誘う。しろ が高砂の不調を見抜くのは、彼女が彼という人を理解し始めたからかもしれない。

高砂は しろ の前では演技をやめることを意識する。ダサくても、情けなくても自分の感情をちゃんと伝える。これまでも しろ の目には浄化のパワーがあるような気がしていたが、彼女の目を見た者は、悪意や嘘、自分の虚飾などが洗い流されるのかもしれない。

これまで高砂は自分の天性の才能で周囲との人間関係を築き、良好だったから、例えば野球の才能一つが欠けたとき、周囲に どう思われるかが怖くなった。だから野球で自分を信頼してくれる人との人間関係をリセットした。

そんな自己嫌悪があったところに、しろ は高砂を根本から必要としてくれた。『1巻』での野球部顧問への言葉や、『2巻』での しろ が高砂を信じてくれたノートの言葉に彼は救われた。そうして しろ が高砂の世界を変えていった。

ヒーローのトラウマという少女漫画ヒロインの大好物を前にしても、お節介にならない しろ が良い。

うして自分の弱さに向き合った高砂は松島に頭を下げて謝罪する。そして八千代からは小説を書くことを勧められる。それが感情のコントロールや自己分析に繋がるから。

高砂はトラウマを克服して新しく生まれ変わった。そして新しい自分の視点でも高砂は しろが好きだと分かる。

時は進んで7月。しろ にはクラスで本を貸し借りできる憧れの友達が存在する。高砂も雰囲気が柔らかくなった。しろ は自分が対等になれたら告白しようと考えていたが、高砂の成長は著しい。

そこで しろ は小説に精を出し、高砂に完成したら見せる約束をする。

その小説の添削中、八千代は しろ の書いた小説を添削中に、彼女に告白する。このタイミングだったのは最初の告白の時に約束した(『4巻』)時間の経過と、そして小説の中の高砂への気持ち・理解に溢れていたからではないか。

しかし しろ は八千代そして寿ミチル先生は大切だが、特別なのは高砂だという。そして八千代は価値観・世界の違う2人だから、良い反応が生まれたことを知っている。何もかも分かったうえでの覚悟の告白であろう。


ろ は八千代の勇気に触れて、自分も触発される。対等になる日を待つばかりでなく、勇気を出す。

だが それから1週間、告白のチャンスを逃し続ける。そんな時、天文部の部長から流星群観測会に誘われる。流れ星観測は しろ が高砂への気持ちを自覚した大事なイベント。

だが当日、告白へのプレッシャ-で寝不足の しろ は階段から落ちる。足を痛めてしまい、しろ は即座の帰宅を高砂から勧められる。告白という目的のために観測会に固執しようとするしろだが、天文部のイベントに迷惑はかけられないという高砂の言葉を受け早退することになる。

高砂は以前も、身を挺してチア部の女性部員たちの間に割って入った しろ をたしなめていたが(『4巻』)、こういう彼の正しさが良いですね。しろ を全肯定しすぎず、彼女の間違いを ちゃんと指摘してくれる誠実さが見える。

告白場所はセンチメンタルに浸るためには『1巻』と同じ屋上が良いのだけど、別の場所にすることで しろ の身体や周囲への迷惑といった広い視野で物事を考えられる高砂の能力が示される。それに今回は文芸部と天文部の合同イベントで、屋上で星を見ても2人きりには なれない。ましてや八千代もいて、告白なんかしたら気まずいだろう。そういう未来の問題も高砂はスマートに回避しているように思う。


傷した しろ は高砂に負ぶわれて帰宅する。帰り道、2人は公園に寄り道して、流れ星を見る。

その流れ星に しろ は勇気を願い、高砂に告白する。同じ視点ではあるものの負ぶわれたままの言葉は、高砂に遮られ、顔を見て言うように促される。目を見て話すこと、それは本書において大切なコミュニケーション方法だもの。しろ は星を見た際に高砂への恋を自覚したが、高砂が しろ に惹かれ始めたのは その目を見て表情を輝かせた時なのだ。

しろ の告白に高砂は嬉しさを爆発させる。犬と飼い主と自分たちの関係を表現したのは しろ だが、実は高砂の方が ずっと しろ に待てと言われた状態の犬であった。この逆転の現象も面白い。
そして高砂も自分の気持ちを素直に吐けるようになったから「大好きだ」と返答する。そんな彼の後ろにも星が流れる。


に時間は流れて12月。しろ と高砂が応募したコンクールの結果が出て、高砂の作品が入選する。しろ じゃないところがアサダニッキ作品らしい。そっちかい!と読者全員がツッコんだだろう。

天体観測の夏休みから交際し始めた2人だが まだキスをしていない。

高砂は しろ にだけ入選作を先んじて読ませる。なぜなら彼の小説のモデルは彼が見てきた しろ だから。そう考えると中学時代の しろ は八千代が、そして高校時代の変わりゆく しろ は高砂が小説にした。しろ は2人の男たちのミューズなのか。さすがヒロイン。

小説を渡すのを土壇場で恥ずかしがる高砂に、引き下がらないしろ。そこで高砂は条件として ずっと我慢してきたキスを要求し、しろ もそれを受け入れる。

季節は一巡し、もうすぐ2人で過ごす2回目の新しい春が はじまろうとしている…。

オレが君の足元を照らす物語を書けたのも、オレが お前の犯行を見抜けたのも、オレたちが似ているから。

きみと青い春のはじまり(4) (デザートコミックス)
アサダニッキ
きみと青い春のはじまり(きみとあおいはるのはじまり)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

ぼっち女子だった末広しろは、クラス一の人気者・高砂に罰ゲームで告白され交際スタート! 高砂の優しさを知るうちに本気で好きになってしまったしろだけど、このまま交際を続けさせてはいけないと、高砂に友達に戻りたいと宣言。そんな時に文芸部の八千代から告白されちゃって!? 三角関係はさらに激しさを増して…! ぼっち女子×人気者イケメンのジェットコースターラブコメ第4巻!

簡潔完結感想文

  • 後発の当て馬の行動に刺激されるヒーロー。だが時系列的には当て馬の方が片思い歴が長い。
  • 八千代が似た者同士の しろを救える物語を書けたように、高砂が今回の犯行の真相に辿り着く。
  • しろ と目が合った人は心が浄化される!? 高嶺の花とも友達になるが、彼が友達を辞めるってよ!?

の姿は僕に似ている♪ の 4巻。

少女漫画ではヒロインの恋愛模様が膠着状態に入った際、別の人物を引っ張り出して話を意図的に脱線させる。それで動かないはずの物語を動かしたり、一定時間の経過を確保したりする。

初読の際は『4巻』におけるチア部の騒動は唐突に思えた。これはヒロイン・しろ を巡る高砂(たかさご)と八千代(やちよ)の三角関係が膠着しており、作品としても早々に答えを出すわけにもいかないから、迂回路を開拓しているのかと思った。
だが再読してみると、このチア部の騒動、そして騒動の当事者・鶴原(つるはら)を巡る彼女の心をトレースすることが、高砂の心の変化に必要だったことが分かる。

本書において しろ と八千代、そして高砂と鶴原が同じグループである。

同じグループというのは第三者から見た時に似ているということであり、それが男女であるならば同じ空気を まとっているから「お似合い」に見える。

結果的に鶴原は この恋愛模様に全く参戦しないのだが、しろ にとっての仮想敵(しろ は敵という見方はしないだろうが)として鶴原は必要で、鶴原という存在がいるから しろ の中で恋心の輪郭が鮮明になっていく。

八方美人の高砂にとって八千代は唯一のライバルなのかも。彼が しろ と同じグループだからこそ羨望する。

れは高砂にとっての八千代の存在も同じである。八千代は いわゆる「当て馬」で彼が頭角を現せば現すほど、物事を斜めに見るような高砂に余裕がなくなる。高砂にとって八千代の存在が不快なのは、彼のせいで焦燥や独占欲といった自分の中の感情に向き合う必要が出てくるからではないか。そして八千代が しろ にとっての一番の理解者であり、彼らの雰囲気が似ているからこそ高砂は自分が敗北する姿を まざまざと思い浮かべられる。寝不足になるぐらい悩むほどに。しかし この悩みこそ自分と向き合う時間で、高砂には持てなかった時間ではないだろうか。八千代は創作を通じて自分の気持ちを言葉に変換したからこそ、少し達観した境地に達している。今度は高砂が自分と向き合う番である。

そして高砂が自己との対話以外で自分の姿を見ることになるのが、今回のチア部の騒動と(ネタバレになるが)その首謀者の鶴原との対話である。ここでは高砂と鶴原が似ているからこそ、高砂だけが鶴原の思考をトレースでき、それが真相の究明に繋がっていく。ミステリのように社会が認知した「事実」の奥に もう一つの真相を用意する構成だけでも舌を巻くのに、この騒動が高砂の心境の変化にも関わってくるのだから恐れ入る。作者を好きにならずにはいられない。

そして八千代の存在と、鶴原の心を覗くことで、高砂は しろ と「友達」関係を終わらせようとする。これまで友達や部活仲間を獲得するばかりだった しろ にとって初めての関係の破綻である。もちろん読者には それが何を意味するか分かっている。だからこそ最終『5巻』が楽しみなのである。


千代と しろ が似ているのは、彼らの行動が一歩遅いことからも分かる。

しろ は高校1年生の新入学の時に文芸部に入ろうとしたが、躊躇していたら廃部になってしまった過去がある。同じように八千代は中学の卒業式に自作の小説のモデルにした しろ に自分の思いの丈を伝えようと思ったが、一歩遅く、中学では彼女と一言も会話を交わさなかった。そして高校でも遠くから見守っていたら、横から出てきた高砂との交流で しろ は表情を変えた。

本書では八千代 → しろ で小説を書き上げ、そして しろ → 高砂 で作品を書こうとしている。

八千代は創作を通じて間違いなく しろ の気持ちを掬い上げた。それは作品に対する しろ の満たされた感想の数々で明らかである。だが考えてみると八千代が しろ を理解できたのは彼の想像力というよりも2人の根本的な気質が似ているからではないだろうか。もしかしたら八千代こと寿ミチル先生は、結局しろ に対する物語しか書けないという自分の限界を感じて2作目で大きく躓く可能性がありそうだ…。

そして似た者同士の関係は お似合いなのだが、そこには価値観の違いなど人に大きな変革を与えるような材料が乏しい。もし八千代が先に しろ に話し掛ける世界線が存在したとしても、しろ は八千代と喋れるようになるだけだろう。彼女の色々な表情や強さ、そして世界の広がりをもたらすのは高砂しかいない。

しろ が高砂をモデルに小説を書くということは、八千代が しろをモデルにするより困難なことなのかもしれない。ただ高砂を分かりたいという しろ の気持ちが本物であれば、それを書くことが一種のセラピーになるだろう。価値観や世界が異なるからこそ難しいが、2つの世界を知ることは世界が広がることでもある。


れの作家の正体は八千代だった。高砂と話すまでの1年間、しろ はずっと八千代の著書を通して彼に応援されていた。

そんな八千代の正体と彼による告白、その情報量の多さで しろ は発熱し、高砂の勧めで保健室で休むことにした。だが状況を利用したのは八千代。彼は授業中に体調不良を訴え、しろ と対話する。高砂というナイト抜きで しろ に近づく頭脳プレーである。

しろ は改めて八千代が寿ミチルであることに驚き、そして作家本人に直接お礼を言える機会があることに感謝する。だが八千代的には初めての告白をしたことが重要。

それでも彼は返事を急がない。自分の存在や好意を しろ に消化してもらう時間を設ける。それは ずっと しろ を見てきた八千代だから彼女が高砂ばかりを見ていることを承知だからだろう。


砂の しろ への気持ちが、罰ゲームの罪悪感や、一度面倒を見たペットに責任を持つ類のものであれば、八千代にバトンタッチできる。だが もちろん高砂はそんなことはしない。自分がしろと関わりたいのだから。

だから早退する しろ を追う。上履きを履き替えることも忘れて。そのぐらい今の彼は余裕がない。彼の人生でこんなに焦燥を覚えることも少ないだろう。高砂は しろ の意外な表情を見てきたが、自分の意外な側面も同じぐらい発見しただろう。

高砂は しろ の八千代への気持ちが知りたい。問い詰めるのだが、しろ の方は高砂と友達リセットを宣言した身だから、自分の好意が高砂にあることを言えない。それを隠すために、八千代の件は保留中であることを伝える。

高砂も しろ の気持ちを何よりも尊重するために自分の気持ちを押し付けるような真似をしないから、何かあったら相談しろというに止まる。そして素直に、しろ が問題に対して生真面目に取り組むところを高砂は好きだという。

高砂は しろ を家まで手を繋いで送る。色々と理由をつけて最後まで送り届ける高砂(と しろ)が可愛い。


千代が巻き起こした騒動はひと段落して、しろ は八千代から短編の応募を勧められる。しろが小説の創作に悩むのは いきなり長編を書こうとしているから。それは初心者が高山に挑むようなものだから、手近な目標を立ててみる、というのが八千代の方針。

ここで高砂は八千代への対抗心もあって自分も挑戦すると宣言する。

また しろ を抜いた男同士の話し合いの場も設けられる。
高砂が疑問に思うのは八千代の行動。少なくとも高校に入ってからの1年、しろ が八千代の著作だけを拠り所にしていたのを八千代は間近で見ている。なのに作者が自分であることを名乗り出ず、しろ を放置していたのが高砂には謎なのだ。

八千代も最初は高砂との交際でしろが前向きになり、そして高砂も悪い人間ではないから見守っていた。だが欲が出た。きっと八千代は自分が自分の想像以上にしろの中に影響を与えていたことが嬉しかったのではないか。「寿ミチル」への感謝を、今度はストレートに自分に向けてほしいという欲望が作家先生のモチベーションか。

高砂は先発だが自縄自縛出動けない。一方、八千代は後発だが積極的に動ける立場にある。


砂の膠着状態の中で出てくるのがクラスメイトの鶴原の話。鶴原は高砂の彼女と噂される女子生徒でもある。つまり高砂と同じカースト制度の上の方の人である。

だが しろ は鶴原が所属するチアリーディング部の外部コーチとキスをしているところを目撃してしまう。更に後日、コーチがチア部部長と ただならぬ関係を目撃してしまい しろ の頭は大混乱。

黙っているのが得策か、それとも、と悩む しろ。だが しろ はクラスメイトのために前へ進むことを選択する。彼女にとって目を見て話した人は「友達」だから。

だが しろ からの報告を聞いても鶴原は平然としていた。しかも自分は浮気相手で、部長こそ本命だという爆弾発言も飛び出す。

この話を しろ は高砂に相談できないまま、事態は急変する…。


原とコーチのキス写真が廊下に掲示されたのだった。

その情報を知った部長が鶴原を詰問するが、鶴原は言い訳もせず事実を認める。それに部長は激高し、拳を振り上げるが、それを受けたのは しろ。すぐに高砂が駆け付け、見世物になりそうな騒動を治める。

だが意外にも高砂は しろ の自己犠牲的な行動をたしなめる。彼らの人間関係や性格からして、ビンタ一つで手打ちになったのに、その契機を逃したという。こういう高砂の人を見る目、問題を円満に治める能力こそが彼の能力だろう。そして そんな彼が しろ を選んだ、というのが読者の承認欲求をバリバリに満たすという おまけ付き。

暴力に巻き込まれた しろ への心配もあり、高砂が しろをちゃんと たしなめる場面に なぜかキュンとする。

しろ は解決に自分が動こうとするが、高砂から見ればそれはハードルが高い。だからネゴシエイター兼 探偵役は彼が担うことになる。

彼の人脈を使ってチア部の人を続々と召喚し、尋問する。だがチア部はコーチの入れ食い状態だということが判明する。こうして浮気を噂された魔性の女の鶴原は、一瞬で被害者の一人になった。部長もコーチへの不信感が募り、鶴原への害意を撤回する。

こうして写真撮影の犯人こそ判明しなかったがコーチは追放され、チア部は健全な部活として復活する。


動は収束するが、名探偵の高砂には、一つの真実が見えてきた。

それが鶴原の暗躍。写真の掲示は鶴原本人の自作自演、写真撮影はクラスメイトの亀田(かめだ)の犯行が高砂の見立てである。

実際、鶴原は本気になりかけたコーチを切るために、騒動を起こしていた。意識的に人を動かせる高砂や鶴原みたいな人は、そういう身勝手さがあると高砂は自戒を込めて告発する。他者をどうでもいいと考えている節があるから、しろ への罰ゲームも実行された。

鶴原に感じる底知れなさとか、本心がどこにあるのか分からない戸惑いは、全て高砂にも通じること。鶴原という人を理解することは高砂への理解にも通じる。そして上述の通り、高砂が鶴原を冷静に観察することは自己の深淵を覗くことでもある。


だ しろ は性善説を信じている。そして鶴原の やり方が決してスマートではないことを見抜いていた。彼女は自分を悪者になる手法を取っても、チア部が抱える膿を出し切ろうとしていた。そうして近づく万全な状態で大会に臨む。それがチア部のことを誰よりも案ずる鶴原の計画だったのではないか、と考える。

だが鶴原は、しろが自分のことを買い被って美談に仕立て上げようとするのを嫌悪し、その感情を しろ にぶつける。だが しろ は鶴原の挑発に乗らない。最後まで彼女のことを信じる。

そんな しろ の言葉に鶴原は白旗を上げる。そして鶴原は自分の周囲に本当の友達がいることに気づく。

この場面では しろ が泣いたりしないのが良い。泣けば完全に美談になるが、そうすると しろ が泣くことに逃げたように見える。不器用ながらも しっかりと自分の意見を伝えることが しろ の強さの表現になる。

こういう部分が良いですよね。高砂の能力の高さを示しつつ、しろ が単なる助手や おバカヒロインではない。一般の少女漫画なら高砂くん凄い!で終わらせるところなのだが、ちゃんとヒロインが輝いている。今回の事件で 事実の裏の真相があったように、真相の中に優しさがあるような構成が好きだ。

アサダニッキ作品の美人キャラは、性格に難はあるけど何だかんだヒロインと仲良くなる説は健在だ。『星上くんはどうかしている』『青春しょんぼりクラブ』に続いての3作目である。作者において美人とは面倒くさい性格の人なのだろうか…。美人と仲良くなることでヒロインの強さを表し、そして彼女に女友達を作り、男に依存する恋愛脳から脱するためにも女性同士の暗闘が必要なのだろうか。

しかし しろ は目を見て話せるようになった人 全員を篭絡している。高砂・八千代・鶴原と難しそうな人から攻略する。もしかして しろ の目には そういう力が宿っているのだろうか。そこに宿るのがカリスマ性か庇護欲かは分からないが、しろ が本気を出したら世界平和も夢じゃないかもしれない。なんだか「邪眼」の持ち主が封印を解いたみたいな、中二的な能力のような気もしますが…(笑)


何より、前述の通り鶴原の心を軽くするのは高砂という本丸の前哨戦である。決して停滞した恋愛の穴埋めではない。

そして鶴原という友達を得た しろ は高砂という「友達」を失う…。