《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

振り返れば奴がいる。おれを階段から突き落とした その手を伸ばす奴がいる。

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末次由紀(すえつぐゆき)
エデンの花(えでんのはな)
第07巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

「時緒と みどり は兄妹じゃない。」
驚愕の真実を知り、時緒にアメリカへ帰るよう勧めた みどり。だが時緒はそれを拒み、そばにいたいと望んだ。すれ違う想いに、傷つく2人。そして、みどり は惑う心の中で、新たな決心をするが……。”兄妹”という楔を失った2人の行きつく先にあるのは…⁉ 運命の愛の伝説、葛藤の第7章。

簡潔完結感想文

  • 紫 out の 宮田 in。みどり はいじめっ子と仲よくなりがち。彼女もまた口が悪いからか(笑)?
  • 時緒 階段から転落。実は時緒のアメリカ帰国を望む おじさん の計画遅延の陰謀だったりして⁉
  • 羽柴は物理的距離が近くなると想いが強くなる人。時緒は距離が遠くなると想いが強くなる人。

調を崩した時は何を差し置いても兄妹のもとに駆け寄る 7巻。

このところ体調を壊しがちな兄妹。

『5巻』では兄と離れる不安から高熱が出た みどり だったが、
今回は、妹と離れることのないように無茶をして時緒(ときお)が過労で倒れてしまう。

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この場面だけ切り抜くと、会社の同僚から嫉妬を買った優秀な時緒が突き落されたように見えますね。

体調の悪い妹を看病するために出来る限りのことをしてあげた時緒。
みどり は兄が倒れた一報を受けた後、何もかもを投げ捨てて時緒の居る場所へ向かう。
例え捨てるものが、彼氏と一緒にいられる時間であっても…。

無意識の行動こそ本心で、意識して寄り添う言動は作為である。

彼氏の前でも無意識に、そして無邪気に兄の名前を出す恋人・みどり に対して不信を持ってきた彼氏の羽柴(はしば)。
こちらから求めれば みどり は応えてくれるが、
みどり から心を満たしてくれる自発的な言葉は聞こえない。
いよいよ、何かが壊れ始める軋む音が聞こえてくる…。


直に言えば、内容としては停滞気味ですね。
特にここ2巻は同じことが繰り返されている気持ちになる。

みどり と時緒、接近と離反を繰り返す2つの魂を丁寧に描いているといえばそうなのですが、
恋愛問題としては結末の予想がついている中で、
なかなか進展しない関係性に じれったさ も感じる。

羽柴という恋人がある中での三または四角関係は面白い構図だし、
今回は時緒の生死にも関わるかもしれない事件を起こすなど工夫は見えるのだが。

自分の心から気持ちが溢れ出ないように封じる方向性を、
どうしても「切ない」に変換できない私がいます。


『7巻』はまた、羽柴をじわじわと追い詰める巻でもある。

羽柴は時緒の情報を多く与えられすぎている。

みどり たち若月(わかつき)兄妹に血縁がないことも、
時緒が みどり に付けさせている腕時計が時緒の努力の結晶、自立の印であることも、
そしてアメリカの大学ではスキップ(飛び級)をしたことも知った。

それは時緒の日本に来るため=妹へ会うための たゆまぬ努力。
時緒がどれほど優秀で、どれほどみどりのために動いているかを知ってしまう。

十分に立派な成績(学年1位)で、優しさも兼ね備えている羽柴だが、
時緒に対してはコンプレックスは刺激され続ける。

実質上のライバルが偉大過ぎたことが彼の不幸である。


一方で みどりは、兄に対する想いに揺れ続けていた。

時緒がみどりを想っているのは、みどり が唯一の妹だから。
でも みどり は自分が本当は妹ですらないことを知っている。

その罪悪感の中にみどりはある。
ただ、それでもみどりは、この「兄」と時緒と一緒にいたいと思う。
この募る想いに名前を付けるとしたら、愛だろうか。


だから土下座をしてまで、離れる日のために徐々に兄との距離を広げて欲しいという
時緒を想う紫(ゆかり)の期待に応えられないことを謝るみどり。
紫はみどりに罪悪感を植えつけたはずだが、それを根こそぎ引っこ抜く みどり。
みどりは兄への気持ちを純粋に育て上げるつもりなのだろう。

まぁ、このみどりの思いの往復は何往復目だという感じもしますが…。

そうして事態が膠着したからか、紫は一時物語から離脱。
大学入学のためにアメリカに帰国していく。

時緒を巡って関係性は良好ではなかったが、
トラブルメイカーであり波乱の起点となっていた紫の離脱は残念である。


だ直後から紫の代わりに みどり と多く会話するのが、クラスメイトの宮田(みやた)である。

宮田はかつて みどり を毛嫌いし、彼女を傷つけ続けた女生徒である。

文化祭が近づき、クラス単位での行動が多くなったみどりの学級。
ただ、今まで取り仕切っていた宮田は女子生徒の人望を失っており、自信も失っていた。

そんな彼女を気遣ったのは 彼女の被害者でもあるみどり。
その変化を指摘する羽柴に、羽柴と兄のお陰だというみどり。
ほんと、男性の前で他の男性の名前を迂闊に出すのがみどりの欠点ですね。

そんな羽柴は落第寸前の女子生徒・織田の勉強を見るために文化祭の準備には関わらない。

羽柴という精神的支柱がいない中、みどりは険悪な宮田と他の女子生徒の中に割って入り、
宮田とペアを組んで文化祭の準備を進める。

準備を通じて宮田と忌憚のない発言をラリーし合い、仲を深める みどり の姿があった。
紫といいライバルと小競り合いをしながら仲よくなっていくのが似合いますね。

ちょうど紫がいない時に、かつての敵・宮田と仲よくなるのは偶然ではあるまい。

ちょっと性格が捻じれている人との方がみどりは会話が弾みますね。
みどりも結局、自己中心的で気が強いですから(笑)

宮田が大人しくなった後は、織田が台風の目か。
学校内の羽柴との仲もこじれそうだし、学校外の三角関係は一層激しさを増す…。


んな三角関係の象徴的な事件が時緒の過労による怪我。

その知らせを聞いた みどりは、一緒に帰る予定の羽柴を置いて、一目散に兄のもとに駆け付ける。

また みどりによる失態です。
みどり は純粋に羽柴のことだけを考えたことあるんですかね。

一回だけ行われた性行為も、みどり の男性への恐怖心克服のために思える。
羽柴と直接会えば、みどりの中の好意も育っているように見えるが、
彼と会えない時間に、その気持ちを大切に手入れしているようには思えない。

兄である時緒と離れている時間はあれほど彼を想うのに…。


緒が倒れたのは、自分の限界まで自分を動かし続けたから。

そんな時緒を、彼と一緒に育ってきた正宗(まさむね)は「ロボット」と称する。

『「みどりちゃんのため」がオートマティックでプログラムされ』たロボット。

それは振動で動き続ける、時緒の努力の結晶である腕時計と一緒。

時緒の心臓は、みどり のためだけにビートを刻み続ける。
みどりの居ない世界など、彼にとっては死んだ世界なのだろう。

その証拠に、みどり が無茶して死んだら離れてればよかったと後悔すると心配しても、
「離れてんなら死んだって同じじゃん」と当然のように返す時緒がいる。

…もう重症ですね。
過労で階段から落ちて ぶつけた頭は医学的には何ともなくても、
みどりのことを想い続け13年間で執拗に煮詰めて、脳にこびりついてしまった思考は剥がせません。

これは果たして、時緒にとってのバグなのか。
それとも、この思考言語こそが時緒を動かすプログラムそのものなのか。

解決策は、みどり が子を産むことですかね。
もしみどりの結婚するとなると、時緒は暫く喪失感で動けなくなるだろう。

だが、みどりが子を産み、自分にとっての甥または姪が生まれたら、即座に時緒は甦るだろう。
愛情をスコールのように浴びせて、用もないのに会いに来るだろう。
その子の成長を熱視線で見守り続けながら、独りでいる時緒。
簡単に想像がつきますね…。


どり は時緒の無事を確認して、家に帰って人心地ついてから、
ようやく置き去りにした羽柴に謝罪する。

今回の騒動は羽柴も堪忍袋の緒が切れたようで、第一声から叱責する。

そして羽柴はみどりの中で時緒がいっぱいになっていることを勘づくと、いつも嫌味を言っていますね。
それは彼の小さな反抗で、みどりもその空気を察すると謝る。

でもまた同じことをするのは、頭が時緒でいっぱいになる瞬間が訪れるからなんだけど…。


一方で自分のみどりへの感情が「特別」であるか悩む。
これは幼少期から蓄積された感情なのか、
それともバグか、それとも正常さを保った状態での異常な好意なのか。

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「きれいな子」という綺麗な言葉を使っているけれど、本当に感じたのは欲情なのではないだろうか。

時緒は自分の中に生まれる一切の想いを殺そうとする。
そうしないと「奪いたくなる」から。

羽柴という恋人を、妹という関係を、
その全てを無視してでも奪いたくなってしまうから…。

折り返し地点の『6巻』は、少女漫画のスタート地点とゴールが混在する特異点。

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末次由紀(すえつぐゆき)
エデンの花(えでんのはな)
第06巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

「兄妹で過ごせるのも、あと少しかもしれないよ。」
紫(ゆかり)の父の言葉に不安を感じるみどりの中で、次第に大きくなる時緒(ときお)の存在。強まる想い、そして絆。だが、紫が2人を引き離そうと、みどりに「隠されていた真実」を告げる。それは――!?
繰り返される哀しみが、さらなる波紋を呼びおこす。暗影に彩られた運命の愛の伝説、第6章。

簡潔完結感想文

  • 近づいては遠ざかる時緒との距離。兄妹の絆を信じすぎる みどり に向かって衝撃の事実が語られる。
  • 義兄からの暴力を助けてくれた時緒もまた義兄⁉ 知らない男の人との生活に恐怖を覚え逃亡する。
  • 彼氏との初めての一夜。だけどそこに幸福感はない。必要なのは優しく安心感を持てる男性だから。

人公が生まれもっての兄難の相があることを知る 6巻。

『6巻』は中盤の一つのピークだと思われる。
主人公の みどり が2つの一線を越えるからだ。

1つは兄・時緒(ときお)と自分との間に血縁関係がない事実を知ること。
もう1つは、交際相手・羽柴(はしば)と身も心も一つになったこと。

面白いのは、この2つの出来事が少女漫画としては、始まりであり、終わりであること。

1つ目の出来事によって、倫理的な問題がほぼなく、時緒と みどり が結ばれるルートが出来、
これによって、紫(ゆかり)も含めた四角関係が一層 混沌とし始めた。

2つ目の出来事は、少女漫画ならば一番最後のイベントになることが多い。
私の研究の成果である「少女漫画分析」でも、
性行為は物語全体の8割を過ぎたところ、本書の出版社・講談社に至っては9割超というデータがある。

セオリー通りにいけば物語は最終盤に差し掛かっているはずだが、
本書の場合は『6巻』は ちょうど折り返し地点。

そしてセオリーが なぜ通用しないかというと、
羽柴は正式のヒーローではないからだろう。
残念ながら、法則性から考えるに、
今回のことは「本当に愛している人」との行為ではないといえてしまう。

義兄に性的暴行を受けていたという過去もあって、
みどり は少女漫画の主人公として特殊な状況にある。

今回、一種の逃避手段として みどり が性行為を行ったのも理解の出来ることに思える。


んな重要な節目を迎える『6巻』は、みどり の2回目の東京タワー入場の場面から始まる。

東京タワーを最初に訪れた時は、世界中が敵で みどりは独りだったが、今は兄が傍いる。
しかし、その兄とも離れる日が来るかもしれないという不安がみどりを押しつぶす。
兄を育ててくれたアメリカの一家が兄の帰国を促していたからだ。

そんな不安を抱えてタワーにいる時、
偶然にも東京タワーにも関わるプロジェクトを担う時緒と出会う。
やはり東京タワーは家族に引き合わせてくれる大事な場所。

みどり は出来るだけ冷静に時緒にアメリカ帰国の可能性を聞くが、
時緒はアメリカに帰ることを断固として拒否する。

やはり、みどり と暮らすことが彼の人生の意義になっている。

無理かもしれない条件を押し付けられているけど頑張れる。
そこには動機や守るものべきがあるから。
そういう意味では時緒は仕事にやりがいを感じているだろう。


うして兄と離れる不安を払拭した みどり だが、
時緒のアメリカ帰国を既成事実化して外堀を埋めようとする紫が、
時緒が帰国しても、みどりが この家にいられるよう、一緒に暮らすと言い始める。

兄の確固たる決意を聞いたばかりの みどり は、
今の暮らしを投げうってでも、兄と共に暮らすことを訴える。

時緒と みどり を繋ぐ確かな絆を見せつけられた紫は、
悪意をもって、みどり に真実の一部を伝える。

みどりに兄などいない。
時緒とは血の繋がりがない他人。
両親は連れ子同士の再婚だったことが伝えられる。

これによって、なぜ、両親を亡くした子供2人がバラバラに育てられることになったのかの説明が付く。
それは兄妹2人の親戚・縁者はそれぞれ別にいるからであった。

これまでも特に時緒の みどり に対する想いには色々と予感させるものがあって、
主人公が性的暴行の被害者という衝撃から幕を開けた本書なら、
近親相姦というインモラルな関係でも最後まで突っ走りそうだな、とも考えましたが、
倫理的な問題は取り払われた。

だが、時緒自身はまだ2人に血の繋がりがないことを知らないらしい。
あまり描かれていないが時緒は、妹を妹以上に想ってしまう、
自分のインモラルさに苦悩しているのかもしれない。


して この事実は新たな問題に連鎖していく。
これは紫が意図しての範囲ではないだろう。
なぜなら紫は みどり の前の家での義兄との関係を知らないのだから。

そう、時緒もまた、みどりにとって義理の兄であることが問題となるのだ。
性的暴行を加えた義理の兄のいる地獄から、本当の兄が導いてくれたこの楽園。

義兄とは違い大きな愛で みどり を包み込んだ事実は不変ではあるが、
血の繋がりがあることがみどりを安心させていた側面も確かにあるはずだ。

感動的だったはずの13年ぶりの同居。
しかし それは みどり にとっては物心がつくかつかないかの年の頃に一時 暮らしただけという事実。
時緒が一気に得体の知れない男性になっていく変化が上手いですね。

安心感を覚えたはずの時緒が、他人だということが判明し、
過去のトラウマもあり、時緒が恐くなった みどり は、
時緒が帰宅し、2階の自分の部屋に上がってくる音に怯え、思わず窓から外に飛び降りるみどり。

そんな彼女を受け止めたのは、紫の暴露を一緒に聞き、
以降、ずっと家の外で座り込んでいた羽柴。

羽柴がずっと みどり に寄り添って家の外にいたのは、
窓から脱出した みどり を受け止めるため、
そして今度は羽柴が「兄」のいない世界に導くためですね。

窓は みどり の心の扉の象徴でしょうか。
心、というよりも現実から逃避するために使われていることが多いか。

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得体の知れない男になった時緒から、安心できる男・羽柴へ。みどり が男の間を次々に渡り歩く悪女のようにも思えるが…。

そして意地悪なことを言えば、
一人で生きていく、と口ばかりな みどり の逃避行動には、
いつも受け止めてくれる男の人がいるのも気になる。
自立は口ばかりで、みどり は「愛されヒロイン」の典型のように思える。


ただ、このバトンの受け渡しは面白い構図ですね。
義兄から逃げる みどり を受け止めた時緒、
それが今回は時緒自身が義兄になって逃げられてしまう。

そうして一度は不利かと思われた羽柴が、有利な状況に転じている点も構成として面白い。

紫の作戦は本人の予想を超えたところで作用して功を奏し、
漁夫の利で羽柴に役得のチャンスが回ってきた。

兄弟間の恋愛を描く少女漫画では、
義理の兄妹という設定が持ち上がったことで、2人の間に倫理的な障害がなくなり、
ハッピーエンドに向けて一直線というパターンが多い。

そんな中で、義理の兄妹だから新たな障害が設置されていることが本書の独自の展開だろう。


しても羽柴の夏休みは当初の予定とはずいぶん違う毎日を過ごしていることだろう。

彼の両親は、優秀な息子が彼女にうつつを抜かしている、とさぞや落胆しているに違いない。
これで2学期以降の成績が目に見えて落ちたら、
羽柴一家から息子と別れて下さいと言われる日が来ちゃうかもしれない。


こうして再び、帰るところを失ったみどりは、羽柴の家に向かう。

そこで行われるのは、「義兄」の影や、男性への恐怖を払拭するための性行為。

これは少女漫画の中でも異例の性行為ですよね。
ネタバレになってしまうかもですが、結末からすると、
世にも珍しい作中でのヒーロー以外との性行為である。

そして みどり の方から誘っている点も異例だ。

家に誘った段階で羽柴にその意識があったのかは不明。
落ち着かない様子ではあったが、それは彼氏が家に来た少女漫画のヒロインのようなもの。

そして結ばれた充実感や幸福感に浸っていたのもまた羽柴だけだったのかもしれない…。

「ごめんね なんか 助けてほしくて 利用した みたいになった ごめん…」

行為の後、みどりが発したのがこの言葉。
羽柴や男性側からしてみれば、こんな時に謝られたくないだろう。

これは みどりの真心なのだろうけど、
羽柴としてはムードを壊し、冷静に我に立ち返る言葉だったのではないか。

だって、まるで自分の側には行為に愛がないような言葉だもの。
羽柴は乱暴なことをしない、その安心感から記憶の書き換え、
男性への恐怖を感じさせないためにいる男性のようだ。

でも、それを笑って「いーーんだ 助けたかったから いいんだ」と言ってのける羽柴の強さよ…。
それこそ、みどりが次の楽園に旅立つまで、快適な生活が出来るように尽力するのが自分の役目だと割り切っているのではないか。
その辺、時緒と羽柴は似た者同士なのかもしれない。

少女漫画における最大最後のイベントであるはずの性行為描写が、
羽柴にヒーローの座には座らせないという現実を見せつけた気がした。


家に帰ったみどりは兄に頬を叩かれる。
みどり は兄を責めるばかりで、兄に心配をかけたことには考えが及んでいないから。

この一夜で近づいたのは、羽柴との関係じゃなく、
時緒との関係かもしれませんね。
どれだけ相手のことを想っているか、
それが、はたかれた頬よりも心に痛いほど伝わってきたから…。

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反抗期に家出した娘と、それを叱る母親みたいだ。時緒はまだ20歳なんだけどね…。

この辺は、義父母と養子など、直接の血の繋がりのない家族が、
本物の家族になる様子のようだ。

果たして時緒は「兄」に留まる、それとも別の関係性になるのか。

そして、時緒たち若月(わかつき)兄妹と、紫たち二階堂(にかいどう)兄妹、
2組の兄妹による同居生活が始まる。

それは徐々に距離を置く、兄離れの日々。
これもまた寂しさを紛らわす手段かもしれない。


紫は、時緒との恋愛関係への長期戦の構えを見せる。
もう一度、時緒が自分の方を向いてくれる日を信じて。

相変わらず、紫に冷徹で意地悪な役を押し付けながらも、
最後には彼女の純真をチラリと見せるところが上手いですねぇ。


そんな紫との言い争いの中、扶養されている自分が兄にも、
そして紫にも負担になっていることを知る みどり。

みどり は自分が兄離れをすることが、兄が自由を獲得する手段だと考える。

ちょっと、思考と展開の堂々巡りが始まっている気がしますね。

また、この辺のみどりは、時緒のことを考えてはいるものの、
直接の対話もせずに一人で結論を出すヒロインそのものです。

そこには紫による みどり の誘導がある訳なのですが。


しかし、そんな背景は知らず、みどり の一方的な言葉は時緒を傷つける。
それは、全てが妹のため、という彼の行動理念そのものを否定するからだ。

物語の蚊帳の外に置いておかれて、
勝手に帰国を勧められる、悲しい兄の姿だけが残るのだった…。