《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

トレース問題で封印された この作品と一部 類似した設定を持つ別作品が気になる。

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末次由紀(すえつぐゆき)
エデンの花(えでんのはな)
第05巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

初めてのキスで、また少し心を近づけた由鷹(よしたか)とみどり。ためらいがちに愛を深めていく2人を見守る時緒(ときお)。そんな、やさしい時間(とき)に包まれ、みどりの時緒への感情も微妙に変化しはじめる。そして、時緒の誕生日にみどりは……。絡みあう3人の想いは、どこに行くのか!?幸せのかけらを集め、未来へと夢を紡ぐ運命の愛の伝説、第5章。

簡潔完結感想文

  • お前のしてやりたいことはなるべくしてやりたい©おぎやはぎ世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
  • 時間も場所も超える携帯電話で話したいのは、恋人ではなく一緒に暮らす あの人かもしれない…。
  • 日本に来るために費やす努力と、日本からアメリカに帰らないための試練。全てはお前のために。

えない時間、離れる心を結ぶ携帯電話が一番必要なのは兄と妹、の5巻。

ある「もの」がその巻を象徴することのある本書。
家や時計、写真や「妹的存在」に続いて『5巻』を通じて描かれているのは「携帯電話」でしょうか。


嵐のような沖縄旅行を経て心の距離が一層 近づいた みどり と羽柴(はしば)。

これからは羽柴と頻繁に連絡を取ることを予想した みどり は、
兄・時緒(ときお)に携帯電話を買って欲しいと要望する。

これは みどり からの初めての おねだり。

一緒に住む家も、服も髪型も「妹(まい)フェアレディ」のために用意してきた時緒ですが、
携帯電話は一緒に住む自分と妹の関係には必要性がないからか与えていなかった。

あと、これは時代背景もあると思いますね。
2020年では高校生の携帯電話というかスマホ普及率はかなり高いでしょうが、
雑誌に掲載された2001年前後では、それほどは高くなかったと思われる。

また時緒は みどり が携帯電話を使用する目的が、
恋人の羽柴との連絡のため、と分かりながらも強く反対しなかった。

羽柴との交際が順調だと、それに反比例して時緒との距離が広がるのが この漫画。
沖縄での出来事を通じて、一層 妹離れ・兄離れを加速させていくようだ。


かし、その携帯電話での みどり の初めての通話相手は時緒。

これは一緒に買いに行ったということもあるけれど、
兄と一緒にいる時に、羽柴の顔は脳裏に浮かばない証拠かもしれない。

そんな2人での通話の中で、

「なんでも買ってやれるようにがんばるよ
 おれが生きるって そういうことだ」

という言葉を みどり は時緒から聞く。

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例え わがまま でも私欲でも、みどり の全てを許容するのが時緒の大きな愛。

こんな冗談のような言葉が冗談に聞こえないのは、
そこに時緒の本心を見たからだろう。

これはまるでプロポーズのような言葉でもある。

13年ぶりに再会した当初は時緒は再会に浮かれているから、
みどりに甘く、彼女のための楽園を用意しているのかと思ったが、
このところの時緒の言葉には時緒側のエゴや願望に湿度を感じる。

みどりに対して「刺さる」言葉を選んで使っているようにも思える。


また、同じように みどり が時緒の本気を感じたのは、
彼女が時緒から借りて、日常的に身につけている腕時計のこと。

街で同じブランドの腕時計を見つけて、その金銭的価値を知った みどり。
そういえば時緒は高価だとは一言も言ってないですね。

きっと時緒にとって大事なのは、その腕時計を妹が身につけていること。
自分の想いがこもった時計が妹を守るという意味合いもありそうです。


して時緒自身も忘れていたが、
携帯電話を買いに行った この日は時緒の20回目の誕生日。
昨日まで10代だったんですね。

もしかして、この回は本人たちは意図しないデート回でもあったのでしょうか。
確かにプロポーズっぽいことまでしてるし、最高の一日ではないか。

時緒の誕生日を知らせたのは、お祝いに駆けつけた紫。

しかし腕に時計を見つけた紫はショックを受ける。
正宗と紫、二階堂家の人々は、その時計を時緒がどれだけ大事に思っているかの来歴を知っている。
みどり が妹であるが故に妹的存在だった自分が越えられなかった一線を越えている現実を目の当たりにする。


そんな紫と時緒は みどり を置いてデートをして、
夜には現在の紫の住まいであるホテルの一室に入る2人。

そこで紫は本当の妹が恋人のようであると涙ながらに訴える。
紫が真剣に時緒を想っているからこそ、
時緒の心の中に誰がいるのかが分かってしまうのですね。


一方、そんな2人のホテルでの一夜の出来事は知らずに、
みどりは兄の誕生日を知り、手作りケーキを作る。

ここでは みどり の乙女が全開ですね。
誰かのために何かをしたい、それは広義の愛には違いない。
羽柴の誕生日がきた時に、みどり は同じ行動を取るだろうか。

そして羽柴には購入した携帯電話から、まだ連絡していない。
様々な初めてにおいて、恋人の顔が浮かばない、残酷な現実がここにはある。


なかなか帰宅しない兄に対して、みどりは携帯電話で連絡を取る。
この日、早くも2回目の連絡。
離れていることで一番 顔が浮かぶ相手なのだろう。

けれど、電話をしても繋がらない。
しかし、この電話は、もしかしたら紫と時緒が一線を越えるのを阻止したかもしれない。

だが、それが時緒から紫へ、せめて一晩一緒にいてという譲歩を引き出してしまう。

紫はなりふり構わないタイプじゃないことが好感を持てる。
相手の気持ちを斟酌して、その上で自分の尊厳を傷つけない範囲で優位な行動を取れる賢い人ですね。


帰宅しない時緒に憤慨し、手作りケーキを捨てる みどり。
みどりは学校以外では、思い通りにならないと極端な行動に走りがちですね。
そんな素直な感情をぶつけられるのは間違いなく家族だからかもしれない…。


朝、時緒が家に帰るとみどりの体調が思わしくない。
これは発作のようなものでしょうか。
また独りになってしまう、大事な人に自分よりも大事な人が出来るかもしれない恐怖。
そんな精神が肉体へ作用したのでしょうか。

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独りになってしまう恐怖が体調に影響したのなら、おれはお前を絶対一人にしない(プロポーズ。2回目)

仕事に行かなければならない時緒は、羽柴を代理として呼び寄せる。

兄の時緒に選んでもらったことを喜ぶ羽柴だが、
時緒は「うらやましかっただけ」という。

そして寝込むみどりに口づけをしたその口が呼ぶ名前は「お兄ちゃん」。

更にはそこで、みどりが携帯電話を購入したこと、
最初の登録者が時緒であることを知ってしまう。

羽柴へのトリプルパンチですね。
紫と同じように、恋人の自分でも入れない兄妹の絆を嫌でも感じる羽柴。


様々な事実を間接的に知る、というのは精神的に大きく傷つけられますね。

その行動を みどり が無意識に選び取っていることが残酷です。
自分のことを常に意識させ続けないと、彼女の中には いられないのかもしれない。

とはいうものの、それは『4巻』でも繰り返されてきた、
自信がないゆえの、愛の揺れ動きである。

羽柴は自分に出来る時緒に対抗できることは全部やる覚悟で、
しっかりとみどりに向き合っていく。


だが、不安に駆られた羽柴の口から、この場面で初めて、
若月兄妹に本当に血の繋がりがあるのか疑惑が出されます。

これは大変な事態ですね。
血の繋がりがなかった場合、羽柴の負けは確定でしょうか。

みどり自身は最低の義兄と、13年ぶりの兄しか記憶の中にない。
だから兄に対する感情の正常な物差しを持たない。
自分の時緒への感情は、兄へのものか、それいじょうなのか。


みどりの家からの帰り道、時緒と遭遇する羽柴。
そして時緒は羽柴に改めてみどりを頼む。
一人の寂しさからみどりはまた体調を崩すかもしれない。
そうなった時に救いの手が必要だと時緒は考えたのだろう。

というのも、時緒は今後、みどりに関われなくなるかもしれないから。
それは彼のアメリカへの帰国も含めた事態となる…。


宗と紫の父、時緒にとっては育ての父である二階堂家のおじさんが来日中。

彼には、自分の手の中で優秀に成長した時緒をアメリカに連れ戻す魂胆があるらしい。
そのために、時緒が日本に帰る時の同じように、厳しい条件を時緒に課す。

まるで成功しないことを望んでいるかのように。
まるでみどりと時緒を引き離すことに注力するかのように。

そして、おじさんは実子の紫にも、時緒のアメリカに帰らせる方向で物事を進むように仕掛けさせる。
この時、おじさんが紫に話した秘密は何でしょうか。
紫の表情からして相当深刻な内容っぽいですね。


…と この場面、既視感があるかと思ったら、

アメリカ(しかも西海岸はカリフォルニア州
・家庭環境から別の家で兄弟同然に育ったという関係性
・事業を手掛けるおじさん
・目をかけられる実子ではない優秀なヒーロー
・おじとその実子によるヒーローの連れ戻し工作

などなど、共通点が多すぎるのは渡辺あゆ さんの『L♥DK』でした。

そして、驚くことに最終巻の巻末にはSpecial Thanksとして渡辺あゆ さんの名前がありました。
アシスタントを務めたことがあるのでしょうか。

物語の設定は違いますが、ヒーローを取り巻く環境(後付け設定)があまりにもに通っているために、パク……り…? と思ってしまったり。
まぁ、ベタであり平凡な設定ではあるのですが、真相は どうなのでしょうか…。


閑話休題
そんな おじの一存で、時緒は東京タワーに向けて光るビッグビジョンを取り付けるプロジェクトに配置される。
しかもおじによって年内(作中は今8月かな?)という無理な納期を設定される。

みどりと将来的にも一緒にいるために、
年内は会える時間が僅かになってしまった。

妹と一緒に暮らすための日本の生活で、妹と過ごせない日々が始まってしまう。

ただみどりとの出会いの場所、数少ない家族写真の撮影場所である東京タワー関連の仕事は
時緒にとっては大きなインセンティブですね。


どこにいても繋がるはずの携帯電話は、お兄ちゃんには繋がらない…。

月明かりの下で キス@沖縄。おれ人生のピークじゃね? 間違いナイトプール パシャパシャ!

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末次由紀(すえつぐゆき)
エデンの花(えでんのはな)
第04巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

「羽柴くんが好き」。ようやく自分の想いに気づいたみどり。しかし、みどりを憎むクラスメートが、みどりの裸の写真をバラまいた! 再び絶望に突き落とされた、みどりがとった行動とは? そんな中、アメリカから爆弾ギャルが時緒を訪ねてきて⁉ 苦しみの過去から光あふれる未来へ。想いを刻みながら進む運命の愛の伝説、第4章。

簡潔完結感想文

  • 今まで以上に好奇の目に晒される学校内。でも一人だけ、どんな私も見捨てない人がいてくれるから…。
  • 新キャラ登場。爆弾ギャルは巨大な台風。嫌なことのあった土地を離れて沖縄へ。四角関係ラブコメ編。
  • 恋人は愛されている実感させてくれる人。どんな時でも あきらめないで私を見ていて。そしたら私は…。

獄から天国へ。でも天国の土俵際に立っている 4巻。

『3巻』で自身のポルノ画像を教室内に貼り出され、
再度 地獄に落とされた みどりの学校生活。

だが、恋人となった羽柴(はしば)が何を知っても みどり と共にいることを態度で示してくれたことで、
みどり は毅然とした態度で学校へ登校することが出来た。

イジメというのは常に「弱者」となる者を探す行為でもあり、
みどり への攻撃が不発に終わったことを思い知った女子生徒たちは、
この計画の責任者を、その行為に走った心弱き者として槍玉に挙げる

みどりの写真を貼った実行者の宮田(みやた)が女子生徒の中で議題になり、
彼女は実質クラス内から追放処分を受ける。

彼女たちは『1巻』で、みどり が宮田の他生徒への嫌がらせの犯行現場を見たと言っても信じなかったが、
今回は宮田自身の株が落ちていることもあって、女子生徒は彼女を切り捨てる。

宮田は、自身の株が落ちるという人間関係のストレスや焦燥が原因で、
こんな卑劣な行為をしたのに、更に孤絶する結果となった。


一連の女子生徒たちの心の流れは、客観的に見れば醜いのだが、
同時にリアルだと共感もする自分もいる。

自分が多数派でいるために、更なる弱者を探すために、
徒党を組んでしまう彼女たちの中にこそある弱さは、とても理解が出来る。


そうして八方美人の宮田が陥った袋小路。
彼女は みどり への攻撃を止めないことで みどり が追い詰められることを望むが、
自分を認めてくれる人たち(羽柴や兄)の存在が みどり を変える。

みどり にしては珍しく自分の感情を露わにしながら理由を問い詰める。

宮田は自分の努力と正反対に離れていく人心と、
みどりに羽柴という彼氏が出来て幸せに見える、と語りだす。

そんな一方的な動機と羨望に みどり は宮田に平手を浴びせて、
ポルノ撮影など前の家庭で行われていた性的暴行を告白するみどり。
そして、それを廊下で聞いていた羽柴…。

みどり が宮田に訴える、
「自分の心の醜さと あんたも闘いなさいよ」という言葉は秀逸ですね。
これは人を羨んでしまう時に思い返したい言葉です。


そういえば学校側もこの問題を把握していると思うが、
大人たちからの尋問や叱責の描写は一切ありませんでしたね。
みどり が通っているのは結構いい私立学校みたいなので、
みどり が一方的に何らかの処分を受けてもおかしくはないはずですが。

飽くまでもメインは同世代との戦いということでしょうか。


校と言う地獄問題が解決すると、またまたラブコメに戻る。

夏休みを迎えると新キャラが登場し、日本の楽園・沖縄へ舞台を移すのが『4巻』です。

新キャラは二階堂 紫(にかいどう ゆかり)。
そう、兄の時緒(ときお)と兄弟同然に育った家の子・正宗(まさむね)の妹である。

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憎たらしいけど嫌われない、セクシーさの中に純情を隠し持つ、無敵のキャラクタ・紫(ゆかり)。

ここで2組の兄妹が揃いましたね。
正宗もテンションが高く、お祭りボーイだったが、紫は まさに爆弾。
彼女の前では何もかもが彼女の思い通りに動く。
いや、動くように仕向ける。
コスプレ男・正宗が常識人に見えるほど、紫の破壊力は凄まじい。


そして紫は、時緒の元カノ ポジションでもあります。
『3巻』でも時緒の過去に彼女がいたことにとげが刺さったと感じたみどりに、
スキンシップやキスを含めた現実が付きつけられる。

また、紫を通して、みどり は自分の知らない兄の過ごした経験や時間を感じる。
これは『2巻』で時緒が みどり の凄惨な過去を知って後悔したものに似ていると言えば似ている構造です。

兄妹という確かな絆は感じられるけど、
離れて暮らした13年間という時間の大河が2人の間を流れている。
その断絶を含めて、みどり が時緒と どういう兄妹関係を構築するか、が今後の課題か。


紫は若月家の面々だけじゃなく、
みどりとの約束を守って若月家を訪れた羽柴まで巻き込む。
そして羽柴を沖縄に連行する。
当て身を食らわせてまで(笑)

遅れて到着した兄たちにも、経済的優位を確立して懐柔させる手際はお見事。
そして全員が女王様の手下に成り果てました。

みどりが薔薇の女王なら、紫はワガママの女王ですね。
キャラとして確立している上に、時緒と みどり のお邪魔虫としても大活躍。
どんなことをしても嫌いになりきれないところが最大の強みですね。


紫のもう一つの役割は、愛情の表し方を みどり に実感させること。
紫の時緒への熱烈な想い、情熱を感じて、好きにも種類があることを知るみどり。
紫から羽柴への冷静な関係を指摘される。

今の自分が羽柴に対して、紫の時緒への想いの熱量に届いていないことは、
みどりが自制してしまっているからなのか。

紫の存在や言葉は、みどり の根幹を静かに確実に揺らしていく…。


確かに、みどり は非常識な展開に面を食らっているのだと思いましたが、
彼氏との初デート、そしてそれが お泊りとくれば、
通常の少女漫画の主人公ならば、これ以上ないぐらい胸を高鳴らしているはずだ。

しかしみどりにはそれがない。

んーー、なんだか嫌な伏線が張られ出しましたね。
えっ、羽柴くんは本物じゃないの⁉

交際直後にこの仕打ちはあまりにも可哀想だ。
でも、そう言われると羽柴に当て馬感が見えてくる。
良い人すぎるとこうなっちゃうのが少女漫画か。

そして、旅行中にも数々生じる違和感。
みどりの心の中を大きく占めるのは、実は時緒?


時緒という存在がなければ、『4巻』はただの すれ違い巻である。
両想いの後の小さな波乱であって、勝手な嫉妬や羨望も水に流して、
ほら、仲直りのキスをしよう、という内容になっている。

そう、あの みどり が誰かに対して嫉妬しているのだ。

羽柴に対しては、空港で紫とイチャイチャしていたことに対して、
沖縄にホイホイと来たことに対しての苛立ちが募り当たってしまう。

そんなみどりに羽柴も今日の自分の受難を訴え、
そして彼こそがヒロインのように旅行に対しての胸の高鳴りを正直に告白する。

沖縄旅行は、両者とも自分のコンプレックスを刺激されているんですよね。
みどり は紫に対して、羽柴は時緒に対して。

男としての無力さを痛感している羽柴はそれを正直に伝え、改めてみどりへの想いを口にする。
そしてみどりも応える。

好きな人がいるから、よく思われたい自分がいる。

少し前なら、みどり は自分の容姿や体型など気にも留めなかっただろう。
それが気になるのは、彼女よりもよく見られたい男性がいるから。

そして夜の沖縄のプールで口づけを交わす…。

状況だけ見れば、とてもロマンティックな場面。
どれもこれも、ただのすれ違いの演出に見えなくもない。

しかし、どうしてもそれ以上に不穏な空気を感じてしまうのは、
みどり と時緒の間に、兄妹という関係を超えたものが流れ始めているからだろう。


時緒にとって、沖縄は特別な地。
どうやら彼らの親が新婚旅行でこの地に来たらしい。
時緒が日本で妹に再会してやりたかったことの一つなのだろう。

そんな土地で、並んで眠ることになった兄妹。
原因は紫の いびき で、部屋割りの関係上、一番 問題がない組み合わせだったという理由だけなのだが。

この場面、決して みどり が彼氏よりも時緒を選んだという描写ではない。
正宗が自主的に出て行ったのだし、
彼氏の部屋に行くのも意味が出てしまうから当然の帰結ではある。

だが、兄妹が並んで眠る姿を見た羽柴は、光景以上の衝撃を受ける。
朝日の中、手に手を取って眠る姿は、神々しく、そして何か暗示的なものがある。
正宗の言う「最悪のライバル」とはどういう意味なのか。

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光の中で眠る兄妹に、自分では立ち入れない聖域を感じる。警戒レベルがグンと上がる。

だし時緒自体は、羽柴を みどり の彼氏として認めている。

しかし、夜のプールでキスをする妹を見つめる時緒の視線は切なさに満ちていた。

一時は恋人と呼べる関係になったにも関わらず、
「妹」にしか見えなかった紫に対して、
「妹」には見えなくなってきた みどり。

そんな対比構造が浮かんできます。
義兄に続いて、本当の兄というインモラルな関係は、
楽園を再び追われる罪としては十分ではないか…。


一方で、みどり も また、自分の兄への感情が揺れ動いていることを自覚し始めている。

そんなみどりの心中を、的確に見抜くのは羽柴。

彼自身が時緒と みどりを巡って敵対しており、
みどり の時緒への全ての言動を感知しているから思うことがある。

羽柴が みどり に時緒への独占欲を指摘すると、みどりは声高に反論する。
だが図星を突かれると怒りだすのはみどりの癖ではないか…。

また、紫が みどり に対して自分の時緒への特別な感情・関係を語ること、
そして みどり の少し青い羽柴への感情を揶揄すること、
それらが紫の本来の目的を達成していないことが面白い。

紫が意識しないこと(アメリカでの時間や羽柴とのお喋り)は みどり の心を揺るがすが、
意識して意地悪を込めて話すことは、みどりを落ち込ますことなく、
かえって、みどり が意識していない感情(特に時緒に対して)を呼び覚ます結果になっている。

大きな いびき で眠れる獅子を起こしてしまった紫。その代償は…?